【芝居】「キャロリング」キャラメルボックス
2012.12.9 14:00 [CoRich]
作家・有川浩が舞台化を前提に、出演者一人一人と話をしながら役者に当てて物語を紡ぐという膨大な手間をかけて作り上げられた(別冊文藝春秋に二回連載)120分は家族や恋人をめぐり丁寧で見応えがあって、クリスマスツアーらしい素敵な物語に仕上がっています。大阪のあと25日までサンシャイン劇場。
小さな会社の同僚の女とつきあいはしたけれど、自分が子供の頃に暴力を振るい離婚したのに復縁している両親が許せない男は、結婚式の相談がうまくいかず、結果、破局してしまう。しかし二人は子供服と学童保育の小さな会社の中で働き続けている。2年たち、会社もいよいよたちゆかなくなり、年末で会社を畳むことが決まる。
学童保育で預かっている男の子の母親は優秀なキャリアウーマンで、海外への転勤が決まっているが、その夫は優秀すぎる妻とうまくいかず、別居が続いており、男の子は父親に会わせてもらえない。父親が謝れば二人が再びあえるようになると信じた男の子は、社員の一人に一計を案じてもらい、密かに父親に会いに行くことを決める。横浜の接骨院で働き始めた父親は、借金で経営の苦しくなっている接骨院の院長の女に淡い恋心を抱きひとり盛り上がっている。消費者金融の取り立ては今まで以上に厳しくなるが、彼らの事情は暴走を生み事件となり。
父親が両親が許せない男、それによって別れ、傷ついた女という二人の思いを下敷きに、父親に会いたい一心の子供をこの二人が助け、想いが醸されていくという過程を実に丁寧に描きます。
ヒロインを演じることの多い岡内美喜子と、脇を固めてコミカルな印象が強い前田綾という通常のポジションが逆転しているのが新たな魅力。ヒロインを演じた前田綾はコミカルさをほぼ封印し、可憐で物静かな、しかし内なる熱い思いを持つヒロインを好演。変わってコメディエンヌの位置を岡内美喜子、学歴はあるけれど男運がつくづく悪いという僻みキャラで新たな魅力。菅野良一はもはやデブな癒し系ポジションとでもいう位置というのもまた楽しく。 情けなくて格好悪い父親を演じた大内厚雄のぬけ具合だったり勝手な恋心の盛り上がりだったりを印象的に作ります。原田樹里は無愛想な消費者金融のお茶くみをキャラメルボックスにはなかなかないスタイリッシュさで造型し、消費者金融チームの物語の要を支えます。少年を演じた林貴子は今までのベストアクトと云って差し支えないほどに、物語をかき回し、想いを舞台一杯に伝えるのです。
自分の家族を持ったことのないアタシですが、たとえば別居中の夫が助けたいと思う人のために時に暴走し、時にカラダを張るという、それは痛々しくある種のドンキホーテな振る舞いに、アタシの感覚は近いのです。それは女性を手に入れたいということというよりは、失った家族をもう一度作りたいという感覚がそこに流れている気がしてならないのです。
正直に云えば、会社を畳み、皆が失業するということが決定していても社長どころか社員全員が前向きな気持ちをずっと維持できるということは少しばかりファンタジーな気がしないでもありません。手に職を持つデザイナーや転職ができそうな若い社員だけでで構成されているとはいえ。
男たちはだめだめでも格好悪くても、あくまでも女を守るために戦ってほしい、女は優秀で優しくて包容力だってあるけれど、やはりどこかではか弱さがあって、一人で気を吐いて生き続けていたとしても不安な気持ち。男と女と家族が居て、というクリスマスらしい、しかし大人のほろ苦さが存分に効いていて、マスターピースになりそうな実に厚みのある一本に仕上がっているのです。
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