【芝居】「宇宙みそ汁」「無秩序な小さな水のコメディー」燐光群
2012.12.8 14:00 [CoRich]
今年の夏に国内5カ所での上演を行ったアトリエ公演を再演。
20周年を迎える劇団アトリエの記念公演でもあります。9日まで梅ヶ丘BOX。
成層圏からパラシュートで降下したパイロットのように、エプロン巻き付け降り立ったのは土色の澱みと上澄みに別れたみそ汁のように「宇宙みそ汁」
クジラは導かれて入り江で息絶える。「入り海のクジラ」
バーを訪れた女、マスターが水のことなら何でもわかると聞いてバッグから取り出した水が、大丈夫か、と訊く「利き水」
そのクジラはとても大きかった。クジラ漁をする村に迷い込んだが、その大きさ故に神だと思われ、海に戻れるほど。ある時、村を再び訪れると、戦争になっていて村人たちは軟禁され、海岸にはコブを埋める作業をしていて「じらいくじら」
「宇宙みそ汁」は、 三田文学新人賞の2011奨励賞を受けた詩を核に、清中愛子のさまざまなテキストを坂手洋二が構成・演出を行った一編。全体は詩のテキストの印象で、「味噌汁の具以外には変化が起きない」毎日、子供と自分のすがた、ゴキブリだったり洗濯物だったりという台所や部屋のなかで起きることだったり、アパートの隣人たち、時々やってくる宣教師、あるいは造船所のタンクの中を清掃する仕事に至るまで、作家の暮らす日常をさまざまに切り取って見せていきます。京浜工業地帯という舞台が、なんか私の横浜生活圏に近い感じで、それが結構ツボだったりします。子安の造船所、沖縄生まれの隣人たちなんていう言葉が嬉しい。
詩のテキストを動きを付けながらリーディングという感じの進め方で、それぞれのテキストの強さということをむしろ感じさせます。もちろんこういう形で舞台に載らなければアタシは目にすることがなかったのだろうけれど、一回限りで流れてしまうというよりは、繰り返し読んで沁みていう楽しみ方をしてみたいなと思わせる感じなのです。
「無秩序な小さな水のコメディー」は、 フランスのフェスティバルに出た時につけられたキャッチフレーズで、水にまつわる3つの短編。 「入り海のクジラ」は、息絶えていくクジラ、地震のあとに「陸が海を汚した」とか「二本足のおろか」というようなことばで、311を感じさせる物語になります。クジラの目を通して、今私たちに迫っていることを表現しているという感じ。
「利き水」はバーテンと客の女の会話。何気ないところから、バーテンが水に詳しく、水を飲んで、これが大丈夫なのかを教えてほしいのだという女の切実な願いの物語に。つまりは原発をめぐる水や食べ物、その地域で暮らす人々や、それにより別れて暮らすざるをえなくなった新婚の二人の絶望的な状況と、しかし切実な気持ちをぎゅっと濃縮。動きもほとんどないし、実際の処着地点はわりと早く見えてしまう気もするけれど、切実さが強い印象を残すのです。
「じらいくじら」は、くじらと共存する原住民たちと、戦争によってその共存が絶たれ、地雷を埋め込まれてしまった大クジラ、静かに誰にも会わないように深く沈んでいくというものがたり。どこか寓話風でもあるのだけれど、これもまた、作家が描く私たち(こっちはもう少し広く、人類にとって)が向かっている地雷の無差別な悲劇の存在を描きます。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「獄窓の雪」オフィスリコ(2023.12.04)
- 【芝居】「静流、白むまで行け」かるがも団地(2023.11.25)
- 【芝居】「〜マジカル♡びっくり♧どっきり♢ミステリー♤ツアー〜」麦の会(2023.11.25)
- 【芝居】「未開の議場 2023」萩島商店街青年部(2023.11.19)
- 【芝居】「夜明け前」オフィスリコ(2023.11.19)
コメント