【芝居】「コーポ ニッポニア」ボタタナエラー
2012.12.8 19:00 [CoRich]
ボタタナエラーの新作。マンションの一室をめぐる、3つの時代の物語。95分。9日まで「劇」小劇場。
マンションのフロアを借りている広告代理店の営業部、その休憩室兼会議室。会社の業績は思わしくない。ある日、支店長が通勤時に痴漢で捕まったとの連絡が来る。営業部員全員を集めた会議で、高めの目標を設定することが伝えられたりする。若い事務員や大家の娘のことが気になったりもしていて。
それから二年後、業務規模は縮小され、この部屋からは撤退することになる。事務員の女もこれでおしまいという日、階下の不動産屋の男に抱いていた淡い恋心を伝える。
しばらく空いていた部屋に女が引っ越してくる。離婚して一人で暮らすのだ。久しぶりの友人たちが再会のために集まってくるが、肝心の引っ越し屋はなかなか現れない。
マンションの一室を舞台に、この部屋の大家の娘と、一階に入居している不動産屋の担当者の二人で3つのシーンを貫き、ゆるやかに何人かを共有しながらも、リーマンショックに影響される広告代理店をめぐる話と、その後に入居してくる女とその友人たちの話は基本的に独立しています。この部屋(と大家の娘と不動産屋)はこの時間の流れを見つめているとは云えますが、そこに大きな仕掛けがあるという感じでもありません。
一幕目は、 リーマンショック後に業績が悪化し、しかしまだのんびりした感じが残っていたりするサラリーマンたちの日常という感じ。支店長が痴漢容疑で捕まるというスパイスはあるし、イキナリ殴り合ったり誰が苦手だとか熱い感じもありますが、描きたいのは、その支店長と同期だという男が、その支店長やその妻について、出世と結婚には差が付いてしまったけれど、しかし同期だというある種の青臭さなのかなと思ったりもします。嫌だとか僻むだとかとは違う、なんかもやもやした説明しがたい感じがちょっと作家らしさを感じたりします。
二幕目は、 会社を去ることになったパートの女、想いを伝えられるか成就するのかという恋心を核に、この二年間静かに堆積していった想いと、女性にとっての年齢を重ね同級生たちの生活の変化から取り残される感じのないまぜな感情を描きます。この二年間何をしてきたんだろう、世間の流れについていけなくなってるという感覚はなんか時々思うようになったアタシの感覚にも寄り添う感じ。そういう意味では若い女性の感覚としては違和感がなくはないのだけれど。振られることを制止するように「彼女が居るとかつまらないことをいわないでね」という終盤の台詞がなんかとてもカッコイイ。三幕目の中に紛れ込ませてある不動産屋と大家の娘の告白→振られるの過程と合わせて、ながい三角関係を描いているという感じでもあります。
三幕目は、 離婚して一人暮らしを始めることにした女とその友人たち。仕事に打ち込んだり結婚していたりそれぞれの久しぶりの再会という場。愛すべき友人だったりばりばり働くキャリア志向だったり、恵まれた結婚生活だったりと、年月がそれぞれの生活の立ち位置を変えた、という大学の友人たち。昔の男の話で盛り上がったりもするし、もちろん仲はいいのだけれど、もうみんなはそれぞれに生活に戻っていくのだ、しかし離婚した私には、今日からの生活はあるのだろうかという感覚。作家はこれを台詞としては正面切って書き出したりはしないのだけれど、そう感じてしまうのです。 泥酔したので泊めた引っ越し屋の女との朝の二人、知り合ったばかりなのに「テレビを観においでよ」と誘う家主。古い友人たちよりも、新しい生活に向かって新たな友人とスタート地点に立ったという感覚。
あるいは震災を引き合いに出しながらも、かつての友人が震災とは関係なく亡くなったことを引き、震災はもちろん大きいことだったけれど、人が亡くなるということは「ひとりひとり」のことなのだ、ということも、(離婚して)一人になった女とあわせて「ひとり」を強く意識させるのです。
少々癖があって、印象に残るキャラクタもいくつか。 大家の娘は3浪したり、就職説明会もどこか危機感がなくて、生活の裕福さというか格差を意識させますが、その仲でも彼女が感じる孤独が描かれます。裕福さの象徴というわけでは内のだろうけれど、、それぞれのシーンでカジュアルな受験生、短大生、(結婚式帰りの)ドレスアップという具合に可愛らしさ、眼福が存分に。
女の引越屋。古着屋でたまたま買った原発反対Tシャツを揶揄されてイキナリ切れてみたり、呑みに引き留められたら泥酔して結局泊まっていくことになってみたりと、自由すぎる感じはあるけれど、なんか微妙に世間からズレていて、生きにくい人なのだと感じさせるのです。オリンピックの感動秘話なんかよりも競技がみたいと共感する、離婚した女もまた、その生きにくい感じ。その違和感、なじめない感じということが物語全体を薄く広く覆っている感じがちょっと面白いと思うのです。
女の引越屋を演じた松下知世が、その自由さと不器用さを存分に。新しい入居者を演じた古川直美は静かで派手な台詞は少ないけれど、奥に秘めたる気持ち、あるいは違和感を内包している感じが静けさの中の人物の強さを造型します。大家の娘を演じた泊ヶ山まりなはその眼福、しかしその容姿だけではなく、3つの年代の雰囲気をしっかりと。
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