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2012.12.31

【芝居】「祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~【KERAバージョン】」Bunkamura

2012.12.29 18:30 [CoRich]

ケラリーノサンドロヴィッチの作を、彼自身の演出と蜷川幸雄の演出という二バージョンで上演する企画シリーズ。10分の休憩を2回はさみほぼ480分。30日までシアターコクーン。

港街・ウィルヴィルはドン・ガラスが牛耳っている。長女と別れた司祭の居る唯一の教会に人は寄りつかず、警察も市長も言いなりになっていて、三人の娘たち含めて、人を殺すことすら何とも思っていない。ドンの母を救った流れ者は次女と恋仲になるが、背中の焼印はこの街で蔑まれる人々の印そのものだった。生活が苦しい若者たちも夜は窃盗を働きなんとか生活しているが、三女の気まぐれで招かれた屋敷で主人に気に入られ、働くことになる。屋敷の使用人夫妻は子供を亡くしているが、街をかつて訪れた道化が息子のことを覚えていて嬉しく思っている。
ミサに訪れる市民の居なくなった教会の司祭は、旅回りの錬金術師にそそのかされて、神の奇跡を市民たちに目の当たりにさせ、すっかり信じた市民たちに願いのかなうクスリを分け与える。単なるライ麦の粉だったが市民たちの望みが微妙に叶うのは道化のまじないの威力だった。が、道化が徐々に弱ると、そのクスリを飲んだ市民たちは謎の病気にかかり、死んでいくようになる。市民の大半が病いに冒されるようになり、街そのものが維持できなくなっていく。

父親を殺すために動き続ける男というシェイクスピア風だったり、三人姉妹的な不安を感じつつも何とかなるという無邪気さの向こう側に迫る滝のような救いの無さ、差別されることを強いられる人々、地下に潜る抵抗、街が沈みゆけば牛耳ってる側だって無傷では居られないのだというごく当たり前のこと。 沈みゆく、というとどうしてもアタシたちの国のことを重ね合わせずにはいられません。それでもなんとかなると信じて疑わない(というよりはそうせざるを得ない)金持ちだちだったり、夢に逃げ込んでしまう夫婦だったり、やけに強い上昇志向だったりというあたりは、そういうイマのアタシの気持ちにしっくりきます。あるいは気楽に生きてきて考えない方な極楽とんぼなアタシですら三人姉妹という物語がどんどん現実に感じられるようになるというか。 確かに上演時間は相当に長くて、本館地下駐車場も物販も終演時間に対応出来ないとか、終演を待たずして帰らねばならない観客が見受けられるとかの歪みがあるのは、コクーンクラスの劇場としてはどうなのだ、という気がしないでもありません。それでもアタシは登場人物たちに寄り添いたくなり、状況の酷さに憤りながら食い入るように物語を見つめてあっという間に時間がすぎてしまうという希有な体験だと感じられるのです。基本的には芝居はスパッと短くて面白いのが最高だとは思うのだけれど、社会とか人々、あるいは(ここでは街だけれど)国を奥行きを持って描き出すということ、絵の具を重ねるように丁寧に丁寧に積み重ねていくと圧巻なのだ、ということを全身で浴びることのうれしさ。

仕立て屋を演じた三上市朗の静かに生きていること、同居する娘への思いの強さを併せて強く印象に残ります。ドンを演じた生瀬勝久、そうなるとわかっているのに逃げられないということの悲劇を背負います。大倉孝二演じる白痴というのは、物語の転換点というか特異点を一人で背負うのだけれど、それを軽々と演じるちから。緒川たまき演じる次女に満ち満ちる色気と気品、安部なつみ演じる三女の快活と恋心。久世星佳演じる長女は司祭を演じる西岡徳馬との再婚を人目を忍んで、という歳を重ねて折り返す恋心が嬉しい。仕立て屋の娘を演じた夏帆はどこまでも美しくまばゆい。

プロジェクションマッピングを初めて見たのは確かナイロンでした。その単語すら知らなくて、どの芝居で見たかも思い出せませんが。更に大きな舞台で精度が高く、しかも美しく、輪郭をなぞる光、というモノトーンがむしろ印象に残るのが不思議なのです。

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受信: 2013.01.18 20:38

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