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2012.12.06

【芝居】「D51-651」パラドックス定数

2012.12.1 15:00 [CoRich]

戦後迷宮入りした事件、下山事件(wikipedia)とがっつり四つに組み、貨物列車に乗務していた機関士・機関助士・車掌と、警察、役人、弁護士という六人の男たちの物語はやがてその時代を映し出す120分。2日まで上野ストアハウス。

1949年7月6日綾瀬駅にほど近い線路上で常磐線最終電車によって発見された轢死体は行方不明になっていた国鉄総裁・下川定則のものだった。直前に通過した貨物列車によって轢かれたのだった。行政機関職員定員法の施行により、職員の6分の1にあたる10万人を整理する対象者の発表があったその日のことだった。他殺か自殺かさえも、捜査は早々に行き詰まる。そんな中、乗員の一人の車掌が整理対象者に挙げられる。

当日パンフによれば、作家の父親が「怪人21面相」の頃にこれも芝居にしてくれないか、と持ちかけた題材だといいます。戦後の混乱期にいくつか起きた迷宮入りの怪事件のうちの一つで(アタシは小学生の頃に学研から出ていた「ジュニアチャンピオンコース」で繰り返し繰り返し読んだたくさんの事故・事件のうちのひとつです)今なお謎に包まれている題材。

事件そのものの謎を解いたり、犯人たちを仮定したりするわけではなく、それにかかわった人々を描きながら、その当時の世相と人々の想いを炙り出す、という方法を作家はとることにしたようです。人そのものを描くよりは、もっとふわっとした「社会」を描くことになるわけで、実際のところ、すこしばかり作家の気持ちよい切っ先が鈍る感がないわけではないのですが、それでも、かっこ良かったりかっこわるかったりする男たちの生き様を描く骨太な物語は安心して観られるのです。

10万人規模の人員整理を争議もなしに一方的に進められるという法律が作られるという異常事態。整理された名簿が発表された直後の事件は謎だらけで、しかも捜査は事実上打ち切られてしまうという時代の事実が持つ凄み、をどう物語に反映するかは生半可ではないと思うのです。が、そこにきっちりと爪を立て物語にするということから逃げない作家と役者たちの心意気に痺れるのです。

パイプでイントレを組んだ三分割は時に機関車の乗務員室、ときに機関車の傍らになります。すかすかな空間なのに、たたけばちゃんと音がするわけで、鉄の塊をシンプル、効果的に紡ぎ出すのです。

6人の男たちはもちろんどの役もどの役者も魅力的です。そのなかでも、 今作において圧倒的に目を引くのは、陰を持つ職人たる機関士を演じた生津徹なのです。無骨さ、不器用さを貫く一本の気持ちの造型が物語の骨格を強固なものにします。時代に翻弄され、赤狩りの対象となってしまう車掌を演じた西原誠吾の少しばかりゆるい、しかし実直で誠実な感じも印象に残ります。小野ゆたかが演じる、「人権派」の弁護士は彼らのマスターピース、東京裁判で同じ役者が演じたのと同じ人物、という隠れたキャラクタつながりも楽しい感じ

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