【芝居】「よわくてやわらかくてつよい生き物」うさぎ庵
2012.11.18 16:00 [CoRich]
年齢を重ねた30代以上にこそ観てほしい手触りで切なさが迫る90分。25日までアトリエ春風舎。医者を訪れる男。医者に自分が妊娠したのだと告げる。学生の頃の漫才サークルで出会い、就職し、子供を苦手だと思って作らないまま過ごしてきたのだという。医者はもちろん信じられないが、男は妊娠したのだといってきかないので診察することにする。
現実には漫才師にはならなかった二人の時間と時代の歩みをきっちり丁寧にすりあわせるように進みます。東北新幹線の盛岡開通からバブルの塔と揶揄される都庁、携帯電話など時代の流れを丁寧に描きます。正直にいえば、初日時点ではその膨大な断片の羅列という作り方ゆえに役者が手こずっている感が残るのは残念ですが、まあ、漫才のゆるい場面だから実は大きな問題ではない気もします。
仲が悪いわけではないけれど、何かをやり残してしまったような気持ち、申し訳ないと思うような気持ち。その切実さは傍目には時に唐突でおかしなものだけれど、(夫婦というステージにすら到達してない)アタシにはその切なさの本当のところは判らないのかもしれません。が、世代が近く描かれていることもあって、切なさは感じることができる気がするのです。
年齢を重ねた女性の作家ゆえに行き届いている感じがあって、たとえば育児休暇、アグネス論争など、女性の生き方に影響を与えたことの取り上げ方の丁寧さ、あるいは隣人である母親と赤ん坊をみて女性が感じる何とも言えない気持ちのもやもやの描き方も(作家自身がどう感じているかは別にして)そう感じそうだ、と思わせる説得力があるのです。 あるいは性同一性障害かの判定テストの質問項目のおかしさにも鋭くつっこむあたり(音楽や英語が好きならば女性に近いというような)も信用できるよなぁと思うのです。
夫を演じた大塚洋は生真面目に見える風貌ゆえに、この突拍子もない話が嘘や冗談ではないということに説得力を与えます。妻を演じた坪井志展は医師の生真面目さとの行き来の自在さが物語の構造を支えます。
ネタバレかも
後半に至り、夫が妊娠だと主張していたものの正体が明かされますが、それは更に物語を切なくしていきます。(テレビ番組の音声にグリーンパークホテルが混じったりするのはその中でご愛敬) 東京初日のゲストは工藤由佳子。隣人(母親)と医者を演じますが、子供をあやす場面がまた、アタシの世代っぽく(中森明菜だ)楽しい。
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