【芝居】「煙草と私たちの害について」踊れ場
2012.9.22 19:30 [CoRich]
ぬいぐるみハンターの作演・池亀三太が、他の原作からの上演をするユニットとしての「踊れ場」。アタシは初見です。みっちり会話も詰まっている105分。25日まで、ひつじ座。
漁師町、田舎の国道沿いのイメクラ控え室に集まる女たち。それぞれの女たちはコスプレが決められている。ナンバーワンの海女イメクラ嬢だけが忙しい。ある日店長代理の男が控え室を禁煙にする、と言い出す。普段からか、間が持たなくなったからか、女たちの噂話は止まらない。 地元の殺人事件の被害者の父らしい男が通ってきたり、あの女には子供が居るらしいという噂があったり、東京で女優になるのを夢みていたり、逃げてしまった店長を待ち続ける女がいたり。
くっつけられた机に広げられたお菓子や煙草などの私物の数々。地方の国道沿いの風俗店で働く女たち控え室での本音と生き様、といった風情で物語が進みます。スピード感とかグルーヴ感が目一杯の「ぬいぐるみハンター」の作家の全く別の一面を見るようで新鮮でたのしいのです。
原作とされているチェーホフ「煙草の害について」は、煙草の害についての公演を語るはずが妻への愚痴で尽くされてしまうという荒唐無稽な名作(柄本明による上演が有名かな)ですが、劇中ほんの少し物語と関係なく引用されるものの、それ以外には明確には現れてきません。
作家が原作に据えた意図も、いわゆる「吸えないつらさ」みたいな気持ちも今一つわからないのですが、煙草が吸えないために少しいらつく気持ち、あるいは持たない間を埋めるように出てくる会話。それも波風立てないような「埋め草」がぴったりくるような、他人の噂話にあふれるというシチュエーションをねらったのかなという気はします。
昔の夫、東京から夢やぶれて戻ってきたことなど、触れられたくないことはあるわけですが、そこから逃げ出すことも出来ない閉塞感、それなのに廻りにはあっと言うまに知られてしまうという小さな世界は、実は本作の地方の、ということに限ったことではない気はしますが、そんな小さく閉塞した社会を巧く作り出している感じ。
彼女たちの日常のシーンではあるけれど、「禁煙」が宣言されたこの1時間半という「非日常」ゆえに見えてくる彼女たちの生き様だったり、思いだったりがぎゅっと詰め込まれていてむせかえるよう。 東京に行こうと夢いっぱいの未成年を演じた、あやかの元気いっぱいな感じ、後半でまわりにしつこく台詞の相手を頼むウザったい感じは実に凄い。結局コスプレはしないものの保母のイメクラ嬢を演じた吉原小百合は圧巻のコミュニケーション能力でどの会話にも突っ込んでいく感じがおもしろいけれど稽古場ブログの紹介を読むとそれが彼女自身の特性だというのもいい感じ。海女イメクラ嬢を演じた背能じゅんは物語に絡むと云うよりはこの店がなんとか回っているというアリバイのような感じは否めませんが、意味の分からないテンションが時折挟まるおかげでで不思議なリズム感が生まれるようで強烈な印象を残します。ナースのイメクラ嬢を演じた山田麻子のボーイッシュでクールな感じなのに影と不器用さのような不思議な魅力。女子高生のイメクラ嬢を演じた井上千裕もまた隠している過去の影だけれど、店長代理との幼なじみという設定がまた違うベクトルの不器用さを味付けしていて魅力的。その店長代理を演じた作家・池亀三太の軽さとへたれっぷりと、幼なじみへの優しさと、ちょっとした下心というのが実は魅力に溢れていたりして役者としても魅力あるなと思ったりもするのです。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「日記」カリンカ(2023.03.19)
- 【芝居】「15 Minutes Made in本多劇場」Mrs.fictions(2023.03.18)
- 【芝居】「Bug」serial number(2023.03.12)
- 【芝居】「Auld Lang Syne」渡辺源四郎商店(2023.03.05)
- 【芝居】「嵐風呂滑郎一座」おのまさしあたあ(2023.03.05)
コメント