速報→「進化とみなしていいでしょう」クロムモリブデン
2012.8.5 15:00 [CoRich]
85分。14日までRED/THEATER。
父親を亡くして感情を失ってしまった少年は医者から日記を書くように云われる。書くことがない少年は嘘の日記からはじめ、小説めいた物を書きはじめる。感情がない男と彼を匿う女の二人暮らしの物語。少年の母親はそれを目にして作家先生を連れてきて読んで欲しいと頼む。
警察は感情のない人々を採用し、情に流されない警察組織を作ろうとしているが、それ以前に低下する捜査能力はいかんともしがたく、犯人をでっちあげて事件を解決しているありさま。それを妄想している女は、脳内で刑事たちが事件を解決できないと、混乱して何をしでかすかわからない。実はむかし一度だけ解決できないことがあったのだ。
上手にステージ、中央から下手側にかけて立つのは五本の柱。あえて舞台を狭く使います。隠れたり行き来したりと空間が広がるようで楽しい。この動きの緻密さ、悪く云えばダンドリなのだろうけれど、リズムに乗り、物語に乗りながら観ていくうちに取り込まれる不思議な感覚があります。
不思議な感覚と云えば、「誰かの書いている物語の中の人々」という入れ子、それが美しい入れ子になっているのが完成度が高い、ということなのだろうけれど、今作その入れ子がぐちゃぐちゃになっている感があるのに、それを瑕疵とは思えないのはなぜなのだろう。もいちど行けるかなぁ。ロングラン、しかもアタシの夏休みにかかってるという幸運もあるから確かめたい気もするのです。
ネタバレかも
実際のところ、地下街で毒ガスを撒くという犯罪の荷担、それ以前に見込み違いの犯人をでっちあげようとした別の事件、男女が逃亡のためひっそりと暮らしていたり、自首したのに門前払いされたりと、地下鉄以前の松本から始まり今年の逮捕に至るまでのオウム真理教の事件をモチーフに物語の骨格を作ります。もちろん現実の出来事をそのまま描くことも、何か作家自身の強いイデオロギーの表出(こづいたりはしつつも)があるわけではありません。あくまでどこかで起きている出来事なのだという語り口ゆえにエンタメとして成立しているのだと思うのです。
逃亡生活していることで、世の中が変わってしまったと感じる感覚、それはあまり嬉しいことじゃないものもあるけれど、その全部を「進化とみな」というのはちょっと無理な感はありますが、それでも、私たち、立ち止まれないわけで、とりあえず未来に向かうためのの正しい姿勢なんだろうな、と思ったりもするのです。
エキセントリックに過ぎる作家先生を演じた久保貫太郎がパワフルで、夢にでてそうなぐらいに圧巻の印象を残します。匿っていた女を演じた佐藤みゆき、クロムでは薄くなりがちな情感を前面に出した感じは物語に潤いすら与えるよう。患者の女を演じた渡邉とかげ、時に驚き時に悩む表情が素敵。警官を演じた幸田尚子は、すらりと伸びた脚がなければまったく成立しない衣装が実にカッコよくて、そこから感情を殺したような台詞とのギャップがあいまって不思議な魅力に虜になるのです。
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