速報→「ワンダフル・ワールド」フライングステージ
2012.7.8 14:00 [CoRich]
フライングステージの新作。110分。8日まで駅前劇場。
東北の田舎で暮らす男。酒蔵の三人兄弟の長男だがゲイであることをカミングアウトして父親に勘当されている。勘当から10年の間、実家には一度も近づいていない。望んでいた映画の仕事にはつけず、震災後はボランティアで現地の子供たちの支援をしている。実家の酒蔵は津波に流され従業員の実家に避難しているが、祖母が住まわせて欲しいと訪れ、続けて結婚した次男の妻もやってくる。
大家の息子もゲイで、震災したセクシャルマイノリティを支えるためのパーティをこの家でやりたいといい、ゲイたちが集まるようになる。
カミングアウトによって実家と10年間ずっと切れていた長男、震災直後に無事であることは確かめたものの、津波で何もかも失った実家。母親も祖母も兄弟たちも、これを機会に戻ってきてほしい気持ち。 彼らが描きつづけるゲイの問題は扱いつつも、実家、跡取り、子供のこと、震災のことを交えつつ丁寧に丁寧に、王道を描いているという印象があります。
さすがに劇中の効果音であっても地震速報の警告音を聴くとやはり気持ちは揺れます。震災地でのセクシャルマイノリティー、何もかも失ってしまった人々、鉄道、避難所、ペット、被災地支援、放射線の被害、こどものこと、食べ物のことをとりまぜ、今の私たちの物語という背景を作ります。
とりわけ、次男と嫁と妊娠、この物語の中、跡取りなどの問題に震災後の気持ちの揺れている人々がいるという現実。悲しいけれどなかったことにしよう、と中絶の説得に対して、悲しいこと作ってどうするのだ、という台詞は重いのです。これ以外にも場面も意味合いも異なりつつ、「なかったことにする」という台詞が何カ所かあって、ここに作家のメッセージを感じるのです。
長男の住んでいるここで行われるゲイのパーティで、次男と三男が出会うというすれ違いのシチュエーションコメディ。そこですべてが明かされるというシーンだけれど、楽しい感じがここに挟まるのもいいリズムなのです。
東北の言葉がふんだんに。とりわけ祖母を演じた藤あゆみ、母を演じた石関準の(トーホグ者ではないアタシには)言葉の自然さは、東北に住む家族という物語の根幹に説得力を与えます。長男を演じた大地泰仁は意固地になる主人公をしっかりと演じきり、その恋人を演じた岸本啓孝の軽くオネエの入ったゲイっぽさが語り口を軽やかにします。作演を兼ねて大家を演じる関根信一はオバちゃんキャラで笑いもとったりしつつ。次男の妻を演じた木村佐都美は、女性として妊娠する女という役をしっかりと背負うのです。
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