速報→「記憶、或いは辺境」風琴工房
2012.6.30 19:00 [CoRich]
アタシは初見です。劇団として20周年、過去全作品掲載の記念パンフも嬉しいのです。決して楽しい物語ではないけれど、それを超えて純粋なラブストーリー、120分。8日までシアターKASSAI。
太平洋戦争、終戦間近の樺太。三人兄妹でやっている日本人の床屋。厳しい炭坑労働や売春宿に連れてこられた朝鮮人たちも何かの偶然でこの店を訪れるが、この店の長女は分け隔てなく接する。
終戦を迎え、殺伐とした混乱の中、この店を再び訪れる。日本人の引き上げは始まったが、連れてこられた朝鮮人たちは戻ることができないで居たのだ。
※作家が当日パンフで書いているとおり、この地域や人々をどう呼ぶかということについてアタシもこれでよい、ということばが見つかりません。本稿は作家と同様の「朝鮮」で統一して書くことにします、作家の判断に載っかるだけというのは少々心苦しいのですが。
扱いの難しい史実を借景しながらも、社会派と云われることの多い作家が描く物語は、実にピュアなラブストリーに着地します。思っていても言えないこと、云う決断、与えられた中でも懸命に生きる人々。 物腰柔らかに感じられる北海道弁、男に髪を触られるということの色気、床屋の椅子と鋏、櫛、タオルというシンプルさが全体として周到に作り込まれていることに後から気づきます。
終盤での朝鮮人の男と、床屋の家族の長女のシーンが圧巻です。恋する心、どきどきする心、近くにありたいということ、それが許されないという悲しさがぎゅっと濃密に作り込まれています。演じた津留崎夏子が圧巻。巧い役者ですが、いままでは軽やかさが身上で何かに抗うような強い意志を持たないのが持ち味という印象でした。前半こそその軽さが存分に発揮されますが、後半は一転、こんなにも豊かで情愛に溢れ、強い意思を持つ女を演じ切ったことに驚くのです。相手役になる朝鮮人の男、配役交代をものともせずに演じた金成均の低い落ち着いた声の格好良さったらないのです。
店主を演じた伊原農は、コミカルで前半のリズム、この場所が皆にとって心地いい場所ということの説得力。その中で遊ぶようにコロコロと笑い、まっすぐに演じる浅野千鶴、さすがにセーラー服という年齢ではないけれど、可愛らしくて納得してしまいます。その友達を演じた香西佳耶も可愛らしくいとおしい。警官を演じた岡本篤、まっすぐで時代に翻弄される役をしっかり。結果としてヒールですが、おそらくはこれがこの時代のニュートラルな感覚なのでしょう。
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