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2012.07.31

速報→「MY SWEET BOOTLEG」MU

2012.7.29 14:00 [CoRich]

ソニーミュージックのすぐ隣で二次創作の物語というロケーションの妙が絶品な80分。開演前には役者や劇団のフリーマーケットも。バー(フード・ドリンクすべて500円。ゆで卵だけが唐突に100円で物語に繋がって楽しい)があるので観劇しながらの飲食も可能なCOREDO乃木坂で31日まで。

客の入らない喫茶店。常連客は硬派の時代物を連載している漫画家。バイトの女はBL指向のオタクで、友人と同人誌を出している。その妹はリア充だが、かわいいのに目を付けてコスプレさせてコミケで同人誌の売り上げを上げようと画策する。漫画家は同人作家に反感を持っているが、この店でたまたま出会ってしまう。反感を持ちながらも、妹のかわいさやマスターの薦めもあって許すことにする。
まだ超人気作となる前の原作だったが、同人誌の人気は急速に上がっていく。同人誌での描かれ方の暴走っぷりに不安を覚えた漫画家は物語を最初の予定とは異なる方向に変えていくが、それは物語を混乱させる。

ホンモノと二次創作の間のあれこれ。本作で取り上げられたプロの漫画と同人誌の関係は、ここでは語られないものの、サンプリングや動画サイトなどのあれこれに繋がりそうな広がりを持つ話題なのですが、今作での描き方は漫画・同人誌に特に顕著な微妙な関係を濃縮して見せて楽しませるのです。

取り上げてもらったら(同人誌のBLだとしても)嬉しいんじゃないかという見方もありましょうが、少なくとも本人(と編集などを含めた出版社)として振り絞るように作り出した作品を、ただ乗りというよりは、作品の世界を蹂躙されることの不安を物語の萌芽として描きます。クリエータは評判が気になるものだけれど、百歩譲って評判までは見ることにしたとしても、そこを踏み超えて物語世界を蹂躙されるようなことは、(クリエータ自身にとっても)「無視」するべきなのだ、という作家の云うことは腑に落ちるのです。今作では「無視」ですが、喧嘩をするでも取り込むでも、迷い無く関わり合う、ということの毅然をプロの側の矜恃(の反面教師)として描きます。

クリエータ自身よりは、むしろ編集や出版といった領域の人々にとって、クリエータの弱みと強みがどう見えるかはわかりません(アタシはどちらでもないし)。でも、クリエータが作品の世間での扱われ方をどう考え感じるのかという一種の教科書にはなる気がするのです。

ハセガワアユムという作家は、どうにも滅び行く方向に物語を持って行きたがる傾向があると思うのですが、これが今作にはプラスに働いているように思うのです。

全てのチケットにはA3両面2枚のシナリオ(戯曲)が付いてきます。作家に訊けば小規模だから成立するとはいいますが、芝居を観たあとにお土産として帰路で読むことを、という心意気が実に素敵なのです。もっとも、アタシの友人が云うように、鍵を預か った妹が不審者を店の中に置いたまま出て行ってしまうのか、というアラがあるのがわかっちゃうのはご愛敬。

漫画家を演じた古屋敷悠は硬派から軟派を見せつつも、思想がある(という当日パンフの説明)を臣事させる説得力。マスターを演じた吉岡そんれいは微妙で描き方の難しい人物をきちんと作り上げます。ヲタ女子(姉)を演じた大久保ちかの目の合わせなさの(二次元に閉じこもるような)絶妙、バイトのヲタ女子を演じた両角葉は三次元というもう一歩先に進んでいるのに、たぶん同じ雰囲気になっているという奥行き。妹を演じた鈴木由里のそれぞれの衣装だったり、様々の表情だったりを通して可愛らしいということの説得力があるのです。

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