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2012.05.05

速報→「翔べ!原子力ロボむつ」渡辺源四郎商店

2012.5.4 19:00 [CoRich]

青森の今と未来の話。豊かな想像力で描く今の私たちがこうしてしまったものの深刻さ。(40代の人々にはおなじみな)海外SF風味で描きつつ、笑いも多くてきっちりエンタメ。おすすめです。90分。6日昼まで、スズナリ。

コールドスリープから目覚めた男。チョウチョウと呼ばれている。青森のある町長に当選した男、核中間処理施設(というふれこみだった)を誘致した。男は百年先のこの町の行く末を目撃すると云ってコールドスリープをしたのだ。が、目覚めたのは千年後で。

トークショーによれば、東北というひとくくりにされつつも青森市内は被災してないという状況のなかで、作り出された物語だといいます。確かに津波や地震よりも、彼らにとっては30km圏内である六ヶ所村にガラス封入されたあれをどうするのだという話。もっとも語り口はもっと軽やかです。自ら「アトミック人情喜劇」と名乗り、ドタバタだったり家族が出てきたりと実に軽い。70年代風のかわいいロボット姉妹やら、青森がりんご王国(しかも人物の役名がリンゴの品種という小技)として独立していたりとさまざまに気楽に楽しめます。

時にコミカルに、時に哀しさをしっかりと描き、物語の中心に立ち続ける男を演じた山田百次が見事。吹っ飛ぶシーンの迫力はまるでワイヤーアクションのよう、とはいいすぎか。女を演じた工藤由佳子は伏し目がちに陰のある女を演じると実に濃厚な色気で目が離せません。ロボットを演じた三上晴佳・音喜多咲子のユニゾンが見事で、音の点での深み。ラッパ状に広がったスカートが回った時の慣性でねじれる感じも可愛らしい。物販でモノを買うと二人に見事なリエゾンで名前を読んで貰える、という遊び心も楽しい。兄弟を演じた工藤良平、山上由美子や技師や医師を演じた高坂明生や柿崎彩香のコミカルさも実に楽しいのです。

ネタバレかも

核廃棄物処理技術の行く末を見届けると云ってしまった男。100年後にはそれが完成しているはずというもくろみと、冷凍はできても現在の技術では解凍できないというコールドスリープの技術への期待。どちらも、先送りというよりは劇中で語られるように「未来への丸投げ」なのです。核処理技術は思った通りには発展しないのに、なぜか莫大な助成金やら研究費やらが入ってきた国という描写も見事です。

奇しくも原発がすべて止まる、という昨今、それはそれで重大なことだし、無関係というわけではないけれど、すでにもう出来てしまった廃棄物をどうするのだ、ということは彼らにとって切実な問題。そこから切り込んで、 「お世話する」ロボット、処理施設から宇宙エレベーター、そこから人類が絶え、氷河期がきたり、新しい生物が生まれたりというほどに気が遠くなる時間、そこをずっとコールドスリープで旅する男。自分一人になってもなお、この星をなんとかしよう、という気持ちが本当に切なくて、怖い話なのです。

もちろん10万年という時間軸の絶望的な長さは、強烈な毒性を持つというアズマシウムなる架空の物質ゆえですが、ともかく人間が自分のこととして想像できるせいぜい100年よりずっと長いという効果を誇張してみせる効果があります。こういうことを可能にするのはSFのちから。ロボット(自動的な機構)だって永遠ではないということも更にことの深刻さを強く感じさせます。

一方で家族たちの話や、子連れで一緒になることにした女と子供の話、コールドスリープという一方通行の時間軸の中でもう再会できない人々のことを思い出すことが孤独をさらにかき立てます。

最近では流行らないというのが定説のSFですが、40代後半ならおなじみなテイスト。それはたとえば「火の鳥」だったりタイトルは思い出せないけれど海外作品でもいくつも目にした気がします。SFとして楽しんでいたあの枠組みなのだけれど、現実のアタシたちの出来事にそれを巧妙につなぎ合わせた物語の見応えと効果はすごいと思うのです。

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