速報→「天使たち」リュカ. (Lucas [lyka])
2012.5.2 19:00 [CoRich]
リュカ.の5年半ぶり新作。115分。6日まで王子小劇場。
作家が書いた物語を受け取りにやってくる編集者。作家が会えない娘に読ませたくて書いた小説は、天使たちの話だった。
志を持った人々が住む屋敷。家主は破格の条件で住まわせている。周りには見守り、時に後押しする「天使」たちが居る。志のある者には天使が寄り添うのだ。志破れると天使は消えてしまうし、寄り添う相手「宿主」は一度決めたら変えられないのだ。
屋敷には平日はバイトして週末にはプライベーターとしてバイクレースで踏ん張る男が冷静沈着な天使に寄り添われて、カメラマンのアシスタントをしているが何かが足りないと云われて一歩を踏み出せない女が居る。彼女には天使が付いていないが、宿主を捜し迷っている天使がよく現れている。ある日新しい入居者がやってくる。絵本作家だが今は意に添わないライター仕事もままならない男、ひたむきな天使に寄り添われて。
どちらかというとスタイリッシュ、少し斜に構えた感じが持ち味だった気がする作家だった気がするのですが、公演を休んでいる間にあったさまざまなことが、こんなにもピュアでまっすぐな物語になったことをにおわせる当日パンフの文章。本公演がない間にさまざまな舞台を踏みながらも役者たちが「リュカ.」という劇団の看板を背負いきちんと守ってきたということの結実ということ自体がうれしいのは、まあ、アタシのまったく個人的な事情奈わけですが。
派手な演出も唸るような設定もないし、当日パンフにあるとおり「ベルリン~天使の詩」のような枠組みゆえに物語に大きなサプライズがあるというわけでもありません。「事務員でも何でも志のあるもの」といってるわりにはここに登場するのはクリエータに近い人々だという声があるのもアタシは同感します。それでも、世の中で起きたことゆえか、作家や役者たちが年齢を重ねたゆえか、単にスタイリッシュということではない、ある種泥臭く「生きること」や「迷うこと」がずっとストレートに、ことさらに誇張することなく描かれるのは素直な作家の気持ちなのだろうと思います。
それは、キラキラとした夢が見える若者(カメラマン)と、引退がちらついたり、もう終わったと云われる人々(レーサーや絵本作家)の対比であったり、寄り添うと決めた相手に対する想いのたけの強さだったり、静かに秘めて思い続けるということだったり、若者たちを優しく見守る視線だったりと、群像劇のように提示され、そこにあり続け、居続ける人々に対しての優しい作家の視線。
物語の外側に、作家と編集者という枠をもう一つ。ファンタジー一本ではなく、決して若くないし、かといって何もかも諦観するという年齢でもない世代。娘という過去は過去として大事にしつつも、ここからまた再び前に進めるのだという素敵なスパイスになります。演じた中田顕士郎が開場中に落ち着き無く、時に関西弁が混じりへなへなな感じが実にいいのです。 ネタバレかも
アタシが好きなのは、迷い続ける天使。時に斜に構え、でも何かタイムリミット感(それが具体的に何なのかはあまり語られないけれど)があって、見守る立場のはずなのに弱さがあって自分が頼る何かを探しているという危うさ、微妙なバランス。勝手にアタシの過去に引き寄せて見てしまう感じだからかもしれません。演じた増戸香織の少しばかりのツンデレ感とのマッチングもよくて、印象に残ります。
あるいは大声で泣き立ち上がることもできない女のシーンは、「子供が生まれる」というのはこういうことなのだという感じ、それは家主の過去を思わせる奥行きも生み出すし、物語が未来を感じさせるという点でも時間軸の広がりを感じさせます。フライヤーにもフィーチャーされている、天使の一人を演じた、こいけけいこは、リュカ.の休止中に格段に巧くなった役者だと思います。あっけらかん、のんびりという感じの持ち味ではなく、ひたむき、必死さがむき出しに前面に出た役は実は結構珍しい気がして新しい魅力に。家主を演じた境宏子は何か超越しているようにそこに居続けることの確かな力。サキヒナタはこの座組の中では若いのでしょう、キラキラと前向きな感じがまばゆいばかり。鬱々とした中に隠れていた優しい気持ちが発露する絵本作家を演じた池田ヒロユキ、物静かで見守り続けていた天使を演じた倉田大輔もずいぶん久しぶりに舞台で拝見する気がしますが、それに立ち会えたうれしさ。
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