速報→「EXPO」乞局
2012.5.21 19:30 [CoRich]
奇譚集という名の短編集。今作は奇譚というよりは、この劇団には珍しく、アタシの友人の云う「メジャー(表舞台の市井の姿)を描く」90分で、企画公演という趣、これもまたうれしい。いくつかの回に短編の再演が設定されています。23日まで神保町スタジオイワト(神楽坂のiwatoとは別の劇場です)
私の生まれる前の大阪万博のこと、想像して、浮き立つような気持ち。あのときの日本の姿「'70」
海洋博に行きたい妻、食事の時の会話にうんざりとしている夫がつっかかる。沖縄に行きたいのだという妻に勝手にすればいいと言い放つ夫だが、突然チャイムが鳴り、夫の知らない男が入ってくる「'75」
マスコットキャラクターに応募しようとする中学生、同級生の美術部の男が家に訪れる。なんか気になってしょうがない。高校生の兄貴はやけに色っぽい女を連れ込んでいて。「'85」
あちこちに立体映像、東芝と埼玉銀行と東京電力。女連れの男、金ならいくらでもある、コンパニオンたちの頬を札束でひっぱたくようにして
「'88」
お台場の夢のあと。その土地にやってきたヲタクの男たち、そこにも新しい恋があったりするがバカにされたりもして「'96」
「70」は大阪万博の話だけれど、それよりずっと若い一人の女の一人語り、私の知らない高揚する時代の感じ、がんばればがんばるほど、実際のところ空回りにも見えて、あの時代が本当に遠くに行ってしまったのだということを実感させます。アタシだって生まれてことすれ、3歳とかそんなものだから大差がなく、今から見た、あの時代ということの落差という見方をしてしまいます。このあとずっと舞台の中央におかれるレゴで作られた(昭和60年代生まれとしてはダイヤブロックを推したいところですが、こちらが正解でしょう)
「75」(と聞くとGメン、と前につけたくなる)は夫婦の会話、時代の何かというよりは、わりと普遍的な夫婦の姿。途中で現れる謎の男が本当に不気味に描かれているけれど、このラインの中ではびっくりするほど安心のオチ。そのあとの夫婦の姿がむしろ怖いんじゃないか、と思ってみると、まさかの大団円みたいになる、というのはむしろ企画公演っぽくて楽しい。
「80」はマスコットキャラクターに応募する中学生、これも時代(途中で登場する大人の女のこの頃っぽさはすごい)よりは、中学生、性への目覚め、愛情というよりも、性欲よりももっと浅い、御しがたい衝動の頃を描く感じ。そのワンアイディアを無理矢理ではありながら、キャラクターの話に押さえ込む感じが可笑しい。
アタシは高校生の頃でしたから、なんかグループデートっぽい感じで行ったよなぁというのが、遠い日の花火で甘酸っぱくかってに自分の思い出に重なったり。まあ、実はよく覚えてないんですが。
「88」はバブルな時代の背景、うなるほどの金、大企業や銀行、電力会社といったものが圧倒的であって、日本が世界一の経済大国だったころのこと。アタシにとってはこのあたりがもっとも実感はある感じ(恩恵は残渣だけを少しばかり受けてはいますが)。銀行は潰れないし、電気はいつまででも安定して供給されるという罵り合いは、今のアタシたちから見ればもちろん後出しじゃんけんですからフェアではないけれど、いつまでも続くと思っていたものがそうではなくなるのだということをアタシたちは知っているのだということは「人類の進歩と調和」(いいコピーだなぁ)なのだな。と思ったりします。
「96」は都市博の中止をバブルの崩壊に重ね合わせ、戦争ならぬ万博を知らない子供たちの時代。その焼け跡のようなお台場の荒野に芽吹いたヲタ文化、そのコミュニケーションのぎこちなさを笑うけれど、確かにそれもまた芽吹き。そこには恋心や出会いもあるし、その時代を写すような感覚がぎゅっと詰まっていて濃密なのです。絵に描いたヲタク男三人の造形から所作、発声に至るまで強烈なデフォルメだけれどその境界線上をうろついたアタシにはこれもまた切なく。 墨井鯨子は、一人芝居のぎこちない空回り感、96でのオドオドしたコスプレイヤーの猫背な感じが絶妙に楽しい。田中のり子はまさかの中学生、無邪気で少し大人っぽくて、でも性のことそんなに知らないって雰囲気がちょっといい。中島佳子をバブル期な女という役割というのは、少年役ばかりだったかつてを思えば信じられない気もしますが、醸し出すあのころな感じが実に出ていてちょっとすごい。 さいたま博でのコンパニオン、残った二人を演じた岩本えり・田中のり子の罵り合いが圧巻。もちろん、台詞が「後出しじゃんけん」ゆえということはもちろんあるのだけれど、役者のちからが圧巻です。
終演後、いくつかの回に設定された短編再演企画、アタシの見た月曜夜は19:30開演と組み合わされた唯一の回だったこともあって超満員で「蝶」。毎度のことながら観たのにすっかり記憶から抜け落ちてるアタシです。これもまた迫力があるけれど、この、わりとメジャーな現代日本の流れを描く本編に組み合わせるのはどちらにとっても少々もったいない気もします。
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