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2012.04.16

速報→「HIDE AND SEEK」パラドックス定数

2012.4.13 19:30 [CoRich]

4年前の初演に比べると三人増えたキャストがプラスに働いているように思える、笑いも多く軽やかな125分。22日まで三鷹市芸術文化センター星のホール。

夢野久作を尋ねる江戸川乱歩。不調で書けないと嘯いたりしながらなんだかんだと交流していて。乱歩は自作の登場人物、明智小五郎と小林少年、夢野久作は呉一郎と若林教授が目の前に現れて物語を紡ぐ。ぴたりと書けなくなったり、予想を超えて動き出したり。売れるものと書きたいものと書けるもののギャップに悩み。新しいもの、おもしろいものを求めてつきまとう「編集者」から逃げ回り。編集者の一人だった、横溝正史の中にもこう、形にならない登場人物がもやもやとわき上がる。それは、袴の探偵と、警察官と。

同じ時代に生きて居た三人だけれど、おそらく交流があったり、編集者の経歴というような今作の作家の嘘を巧妙に織り込み、そこに少々ファンタジーめいた設定という不思議な色合いの一本。正直に云うと、初演の時のアタシの印象はあまりよくなくて、それまでのキリキリと締め上げるような緊張感を期待していたアタシが、少し緩く、奇妙な味わいの今作に戸惑っていた覚えがあります。

野木萌木という作家が時折当日パンフなどでいう「登場人物たちが立ち上がり、勝手に動き回る」感覚をまさに地で行くような感じ。「お話をつくる」なんてこととはすっぱり無縁なアタシには、それが素直に腑に落ちてくる感じはないものの、もしかしたら作家の中にはこういう感覚で物語を紡ぐのかもしれない、という脳内を覗くような楽しさがあります。更にそれぞれの作家の頭の中で起こる孤独な創作という作業を「見える化」するだけではなく、作家互いの想いというか嫉妬に近い「比べる気持ち」の揺れまでも、その創作上の人物たちに担わせていて、奥行きを感じさせます。

書きたいもの、求められるもの、売れるもの、書けるもの、ほかの作家のこと、編集者のこと、読者のこと。それゆえの作家の苦悩のようなものは、もちろんアタシは知るべくもありませんし、そういう作家の苦悩ということを描いた作品は山のようにあれど、それがあっても書き続けたいと思う気持ちの前向きな発露までいくと、なんで作家ってものを続けていくのか、ということの今作の作家の決意というか存在証明のようなものをここに感じ取るのです。

初演にもあった犬神家の一シーンや、途中のダンスめいたシーンは単純にあかるく、楽しく。こういうスパイスが混ざるのは内向きに内向きになりがちなこういう話でアタシのテンションが保たれて嬉しい感じ。より軽やかに、いい意味で軽薄に飛び回る役者たちも心なしか楽しげに。

読者に対する恐怖心のようなものを一点に集約させる終盤、こちとら金払ってるのだから、さあ、何を楽しませてくれるというのは読者(や、あるいは観客)に対する敬意を含みつつも畏怖も含んだないまぜな感情をそのままに。が、たとえば終幕では「作る側」と「消費する側」に明確に一線を引いているよう。「もえぎの会」なんてイベントで観客と交流することは行いつつも、そこにある一線を明確に引くという心意気は、実にカッコよくて、惚れちゃうのです。

初演に比べて、物語の骨子は変わらないのだといいます。が、私の薄れた記憶の中にあるものよりは、ドタバタだったり、コミカルだったりがずっと強くなっている気がします。三人増えた役者は、作家たちの脳内登場人物たちをそれぞれ一人増やしたことに割り当てられていることで、作家と登場人物たちとの間の三角形の会話が成り立つこと、単に人数が増えたことによって一同に会するいくつかのシーンにぎやかになっていることが、その印象の差ではないかと思うのです。

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