速報→「今夜だけ / × / ママさんボーリング」MU
2012.2.5 17:30 [CoRich]
MUの新作三編というふれこみでしたが、新作一編と再演二編という構成で。120分。5日まで駅前劇場。
乞食が住んでいる川縁の廃屋。仲良くなった中学生も出入りしているが、勉強を教えるといって、主婦も出入りするようになる。かつて劇団を潰したこともあるこの女を探しているのは、夫と、興信所の男と「×」
南栗橋のボーリング場に集う主婦たちはフェロモンあふれて優しいイケメン店長目当てだ。中でもバツイチの元プロボーラーの女が一番惚れている。が、その店長の性癖は「ママさんボーリング」(1)
叫びと称してグチなどの投稿を集めるラジオ番組。投稿に夢中なママ友たち。恋愛ネタ、貧乏ネタなどそれぞれの得意ジャンルがあるが、愛犬をなくして夫が嗅覚を失った夫への毒を吐いている。その家には夫の弟も居候していて「今夜だけ」
駅前劇場を斜め遣い。客席をLの字に、舞台をその両端に渡すようにして、窓の向こう側にも導線を作って奥行きのある二カ所を作ります。 結局、人妻三部作というようなラインナップだけれど、物語の雰囲気はずいぶん異なります。
「×」何かを背負ったと思いこんで鬱屈して生きている夫婦と興信所の男、ラブラブなカップル、童貞の中学生たち、いろんな人生のステージ、というのとはちょっと違うかもしれないけれど、確かにそれぞれの人生が渦巻くよう。当日パンフによれば、罪と罰の、というけれど、これが芝居人々に帰着するのはさすがに作家がもっと若い頃に書いたものなのだという気がします。
コミカルに作られていて実に観やすい。「男は仕事して笑っていればたいてい大丈夫、でも俺は仕事してないから全部うまくいってないけど」なんてのはちょっとくすりと来る。台詞じゃないけれど、ボクサーが一般人を殴れないのに挑発されまくるから爆発してする事が子供かっていうおかしさ。あるいは「トラウマってダサいしイタいじゃん」という台詞の深さ、キレる一般人の怖さとか。
主婦を演じた西岡知美の業にまみれた感じがすごい。バカっぷるの女を演じた前園あかりがほんとうに心底可愛らしくて、バナナとはまた違う魅力。セックスのことが頭いっぱいの中二を演じたふたりのうちの一人、小西耕一が実にいい中二っぷりで楽しい。廃屋に火をつける、と人妻に火をつける、なんてくだらない台詞もたのしい
去年の秋「ウミガメのゴサン」で上演された「ママさんボーリング」はものすごく短くてくだらない爆笑編。運動音痴を略した「うんち」と排泄物との聞き違いというか誤解がいろいろ壊していく感じ。日常のどこにでも落とし穴というかほころびはあるんだろうな、という読み方もできるけれど、ほんとーにくだらないワンアイディアをどこに着地させるかという職人技が光ります。男の性癖について疑いをもった女が、その性癖を解き明かしていきそれでも好き、というあたりの鮮やかさ。
役者の名前そのままで演じられた初演の役名そのままで役者を変えるというコネタというか両方観ているアタシは楽しい。唯一同じ役者の前有佳はきっちり見ているという役どころをしっかり。 太田守信演じるボーリング店店長のフェロモン満載な感じもまた楽しい。橘麦は初演とは全く違うキャラクタに造型がまた別の魅力。
もともとの新作「今夜だけ」は三本にする予定をこの一本に凝縮。描きたかったことが何なのかということは今一つわからないけれども。笑いが多い前の二作に比べると、じつはわりと深刻な話しではありますが、それでも軽やかに描いてしまうのです。
心の中に沸いてしまった毒をどうするか、という話だと思うのです。ちょっとまえなら匿名掲示板だけれど、ネット社会ではそういう場所は他にはあんまりなくて、ならばラジオの投稿の方がというのは鋭い視点。若くない作家だからかもしれないけれど、演劇やってる人々の中でラジオを聴く人、当濃くする人の気持ちが分かっている作家なのだよなと思う奥行きを感じるのです。
二人で暮らしている家、徐々にたまっていく毒。ママ友との無駄話も、ラジオへの投稿も、その毒のたまる早さを少しゆっくりにするだけ。ひとつひとつはそうでもない、愛犬を「殺されて」しまったことだったり、弟を家に引き込んでそのあとはほったらかしで私のことを見てくれてないことだったりというものが積もりつもって、という終幕ちかくは圧巻です。色っぽさいっぱいの神谷亜美、清貧(というか貧乏)な主婦(じゃないよな、看護師だ)を演じた前有佳だけ、なぜ「前ゆか」と同じ名前、なんてのも楽しく。
MUの魅力の一つは、当日パンフなのです。あらすじと作品解説、配役それぞれの簡単な説明がついていて、芝居の成り立ちや物語の中身も芝居を見る前でも後でもきちんと楽しく読めるのです。これを自身で書くのを躊躇する向きもありましょうが、いわばライナーノートで芝居をよりたのしくするのに、これを真似するところがあんまりないのは、書くためにはまた別の力が必要ってことなのかもしれません。
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