« 2012年1月 | トップページ | 2012年3月 »

2012.02.27

速報→「間〜あわい」エビス駅前バーP

2012.2.26 18:00 [CoRich]

ひとつの店の中で起きる出来事を20分ほどの短編3本にして70分。3月6日までエビス駅前バー。

客のほとんど居ないバー。家主の男がひとり。ときおり、流しの女が訪れる。
(1)サラリーマンの二人連れ。恋人が居るけれどちょっとギクシャクしている男と、恋人が居ない男。幼なじみをの二人は話しをしたくて同窓会を抜け出してきた。
(2)カレシが出来た女、いままであからさまにダメンズばかりだったのに、若いのに金に余裕があってやさしい男に惚れて恋人同士になる。 そのカレシを友達に紹介したいとこのバーにつれてくる。女友達もやってくるが、どうも、ちょっと妙な雲行きで。
(3) 年に一度訪ねてくるマスターの妹。母親と父親は離婚していて、父親はとうに亡くなった。酒と暴力でひどい父親だったけれど、店をしっかりと守っていた。

マスターと流しの女は全編に登場。営業していない店の店内、という、日常とは少し離れた舞台の設定。それぞれをギターの生演奏の歌で締めくくるような感じ。どこかおしゃれな感じが全体を包みます。

(1)は幼なじみの男同士の友情の話しをベースに。一人が恋人を持つとちょっと嫉妬に見えてしまうような。それでも、何でも話し合えるように、ふざけあいながらなホモソーシャル感あれど、着地点はごくごくストレートで真っ当です。どこにでもある何気ない話しなのに膨らませて見応えある仕上がり。送る側の男を演じた山本洋輔は時にコミカルでオーバーアクションだったりもするけれど、その勢いも最初の一本なので、うれしい。

(2)は、あからさまにダメんずだった女に訪れた春。優しくてお金持ってて、物静かで非の打ち所がない男で友達に胸を張って紹介できて。でも、この若さでこれだけの余裕があるのは、というあたりの物語の運び方が楽しい。もう一人の女は恋人が居るけれどマンネリで、刺激がほしいなんていっていて、その刺激を受けたときの表情が実に素敵。 カレシができた女を演じた川西佑佳、その大泣きのシーン、演奏される「失恋レストラン」も実によくて。友達を演じた鈴木麻美は、久しぶりに拝見する気がするけれど、意外に少ないちゃんと幸せ(だけどマンネリ)という役が、ファンとしちゃうれしい。「刺激」を受けてときめきと恐れが同居する表情がとてもいいのです。

(3)は、家族の話。親孝行したいときには親はなし、という話で、じっさいのところわりとベタではあるのだけれど、情報の小出しにする仕方、他に逃げ場のないように物語を追い込んでいく終盤、そして母親を役者に演じさせずとも登場させる、という演出のうまさ。一番奥に座ってしまったアタシは、その扉のところで何が起きたかはよくわからないのだけれど。工藤理穂演じる「大人な社会人としての妹」と、あるじを演じる宮本行の「成長しきれない兄」という対比がじつにいいバランス。流しを演じた丘咲アンナもこのパートではしっかりと役者で物語にとけ込みます。

ネタバレかも

続きを読む "速報→「間〜あわい」エビス駅前バーP"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

速報→「レイプの夜」コマツ企画

2012.2.26 14:00 [CoRich]

ある種イタい男を描いてきた小松ミムルひとりになっての初めての公演は、女の側の痛さを存分に描き出す80分。劇場「楽園」。

一人暮らしの女の部屋に押し入った友達の男がそのまま押し倒す。が、女は男を殺し、姉を呼んでくる。そこに男をつけていたカノジョ、下の階に住むという男も死体を目にしてしまうが、まだ通報はしていない。もう、男が死んでから半日が経っている。

一人暮らしっぽく適度に散らかった部屋、真ん中に布団。ビデオカメラがあったりする。モテる男を目当てにバーに通う女たちはしかし恋破れて店の他の男たちに流れていくという、まさに生態系。あまり派手ではないのに、「女の一人暮らし」をめぐるさまざまがぎゅっと詰め込まれた感じがします。

全体に女たちのものがたり。人に見られていることを意識した洋服の脱ぎ着が母親に似てきた形容される姉のことだったり、どこか自信がなくて二番手の男の恋人を狙うストーカー女が「優しい言葉をほしがる」気持ちだったり、家主の女にしても、じつにねっとりと様々に女を造型していて、それはある種のイタさ。今までの劇団員たちだったら、イタい男たちを滑稽に描くのに対して、作家自身女性だからなのか、笑いよりも近親憎悪に近いような容赦のなさの視線を感じるのです。こういう作風がまた、アタシが好きだったりするわけですが。

中盤あたり、繰り返しがあったり、「これはアタシの現実」というような台詞があったりして、虚実が曖昧になるような感じもあります。 終幕近くの種明かしまでは正直どこに着地するかよくわからないまま彷徨っているような感じさえします。終幕にしても、これが誰にでも納得できるオチかというとよくわからないのですが、アタシにはなんか、とっても腑に落ちる感じなのです。 その二番手以下の男に惚れてしまった女を演じた吉川順子が劣等感いっぱいというのは昨日観た「ブスサーカス」にも通じるようで説得力。姉を演じた小松ミムルの生着替えはなぜか笑いを生んでしまうけれど、それをわかった上で箸休めのように挿入されます。家主を演じた深谷由梨香のかわいらしさ、わがままさ、あるいは姉と喧嘩するシーンの圧巻。

ネタバレかも

続きを読む "速報→「レイプの夜」コマツ企画"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

速報→「ブスサーカス」タカハ劇団

2012.2.25 19:30 [CoRich]

女優ばかり6人、サスペンスのような不思議な味わいで小さな空間をがっつり埋める90分。3月4日までギャラリールデコ5。これからごらんになるなら、入り口入って舞台の向こう側にある柱の横、2、3列目あたりかと思うけれど、最前列に座っているひと次第かもしれません。

どこか人里離れたところ、女だけの奇妙な共同生活。どうやら何か事件を起こした女たち。愛する一人の男を待っている。その愛憎は入り乱れるが、ともかく男を待つということでこの場を離れられず、微妙なバランスの日々を暮らしている。しかし男への想いのあまり、誰か一人だけが男と抜け駆けしていると疑心暗鬼になる。

「ブス」というタイトルだけれど、実際のところ女優たち(つか女優だけあって、当日パンフでそう云ってる作家だって)それほど酷い面相というわけではないのはご愛敬。むしろ男を愛するという気持ちをベースに、この中では勝てないだろうという劣等感という、「ブス根性」を描くことこそが物語を駆動するちから。そこを始点として閉塞した空間で暮らしている人々の間で醸されるのは、そのなかの「抜け駆けしているひとり」を探し血祭りに上げるベクトル。まったく違うのだけれど、学生運動のさなかで起きた山荘の事件、あるいは学校や職場でくりひろげられる「いじめ」と同じ構図が繰り広げられるのです。

きっちりコメディなのに、その「犯人探し」はまるでサスペンスのようでもあり、終幕はしっかりと、哀しい愛の物語。あとから思い出してみれば、序盤から、こうなることをの伏線だってしっかりと書き込まれていて、

もてている男の理不尽な求めを許してしまうのはもちろんだめんずなのだけど、ほんの少し貰えた愛情を大事に大事に想い続けて生きていける、ということ。男の罪深さ、と云ってしまえば身も蓋もありませんが、そういう生き方をしている女たちを描く会話の深さ。

中盤、誰一人ルールのわからない麻雀卓を囲む女たちが勝手に始めるゲーム、何が地雷かわからないバランスオブパワー、「どうやったら勝ちかわからない」ことを延々と続けるこれもまた閉塞感で実に巧く描きます。そうなんだよな、ゲームから抜けちゃうことの怖さをこんなにも的確に。ゲームから抜けちゃうと、こう(自分のように)なっちゃうんだよな、と自省したりすることしきりなアタシです(笑)。

正直に言うと、全体に椅子が低めの客席で、いつもの癖で最前列に座ってみれば、役者やの影で見えないシーンがいくつもあるのはちょっと残念な感じではあります。

異儀田夏葉、twitterのアイコンみてれば、こりゃブスってことはないよなぁ、という説得力のなさだけど、それまで怯えていたのに、鬼の形相が圧巻で、女優って怖い(笑)。「ブス根性」を圧巻で突っ走るのは内山奈々で、こういう劣等感を目一杯に演じると実に巧くて引き込まれます、一段落 したあとに 安心して静かに語る狂い具合がすごい。一番若い、と突っ込まれる二宮未来、化粧っけのなさが説得感、綾瀬はるかとか小雪に似てる、という見立てがすごい(だって、綾瀬・小雪は似てないのに)。なんか納得しちゃう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.02.26

速報→「トリツカレ男」キャラメルボックス

2012.2.25 14:00 [CoRich]

2007年初演作を、あらたな客演キャストを迎えて。130分。赤坂ACTシアターで29日まで。そのあと名古屋、大阪。

イタリアの小さな街。「トリツカレ男」と呼ばれる男。さまざまなことに「トリツカレ」ては飽きるまで寝食を忘れて没頭してしまう。三段跳びに夢中になっていた彼の前に現れたのは風船売りの若い女だった。人目で惚れてしまった男は、その笑顔の奥にある「くすみ」が気になってしょうがない。惚れているのだが、くすみのない笑顔をみたいと、彼女が困っていることを一つ一つ解決していくが、自分が惚れているということをどうしても言えないままだった。

エンタテインメントファンタジーを謳う彼らのなかでも、とりわけファンタジー色が強い一本。誰もが恋を口にするイタリア、という舞台もいわゆる赤毛モノ、あるいはフラッグがはためき仮面で踊るという祝祭感あふれシーンも珍しい気がします。

その笑顔がみたいという一心で突っ走る主人公の姿はまさに「トリツカレ」ているのだけれど、行き過ぎた想いの暴走や、真実を知っているのにもかかわらず男の暴走した「(あくまでも善意の)なりすまし」を信じてしまう女。これもある種熱に浮かされたような「トリツカレ」の結果かもしれないけれども正直に言うと、盛り上がる終盤のシーンだけれども、ここが腑に落ちない感じはあって、物語に入り込めない感じが残ります。強い喪失感に苛まれたことがないアタシが未熟なのかとも思ったり。

アタシは物語そのものよりも、この世界を作り出す少々マンガ的に誇張された、実は物語の中心ではない愛すべきキャラクタに惹かれてなりません。オウムを演じた渡邊安理はちょっとツンとした感じで、可愛らしく印象的。主人公の姉を演じた坂口理恵もデフォルメされた強さと想いに溢れる造型で楽しい。阿部丈二、筒井俊作、小多田直樹の三人が演じたマフィア風情や、子供たちのシーンは羽目を外しすぎの感あれど、でも実はけっこう楽しくてこの祝祭感には実によく合っています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.02.21

速報→「アントン、猫、クリ」快快(faifai)

2012.2.19 19:00 [CoRich]

2009年初演(稽古場公開)。本編約60分、休憩を挟んでゲストからのリクエストに応じて部分的に再度上演しつつ演出がコメンタリーをつけるという趣向で全体で120分ほど。20日までnitehi works。9月公演で現在の主力メンバーが何人か抜けるという発表直後。

アパート、住んでいる人々、近所の人々、住んでいる街。それぞれに生活をしているけれど、あるとき現れるようになった野良猫を介してつながる人々。

初演は二人の役者だったと思うのですが、2010年のSTスポット公演(アタシは未見)で4人の構成、今回のコメンタリ上演もこの時はじまったようです。10名ほどの登場人物。強い身体を持つ役者で構成されていて、シンプルに洗練され、しかし力強く表現されているのです。初演は作り手の迷いが残っている感じで、わかりやすくはなかったのですが、ノイズがもっとあった気がする初演の方が、アタシとしては好みなのですが。

序盤の「目覚まし時計」、朝の風景の描写、猫でつながる人々、猫が居なくなったこと、そして猫が現れたこと。通りがかる人々、朝の声、町に働く人々、町に所在なく居る人々。終演後のトークによれば、実際にモデルが至りして、公演の中でもそのインタビューで使われた生の音声があったり。なるほど、フィールドワークできっちり町だったり人々をしっかりと描き立ち上げることがしたいのだな、とも思うのです。そう考えると、観客と、あるいは人々とつながろうとする公演の作りが実にフレンドリーだということが腑に落ちるのです。

一人一人がつながることなく生きている都会、そこでつながる瞬間、というある種の寂しさやら孤独やらを描くことを得意とする作家なのだけれど、それよりはもっと普遍的な風景というか、そこにある人々の構図を写し取るような仕上がりです。

終演後に設定されていたのはコメンタリー上演。毎日設定されているゲストや観客のリクエストに応じて、部分部分を演じながら、演出家がコメントをつけていくという趣向。篠田千明という演出家の観客も巻き込んだライブな仕切りは圧巻で、実に面白いのです。いくつかのリクエストを聞いて、適切な小分けのきっかけ分けて役者に指示し、見やすくするように役者の声を個別に絞らせたり、自在に切り取り、早送りしながら見せるということをライブでやるってのは、役者はもちろん、照明や字幕というスタッフたちも含めたチームの力を感じさせます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

速報→「熱の華」セカイアジ

2012.2.19 14:30 [CoRich]

イトコ同士という杉田鮎味と星野多過去による演劇ユニット、二回目の公演。105分。22日までOFF OFFシアター。

学生運動のピークを少し過ぎた頃。逮捕者も出した大阪の衝突から一人逃れてきた男をかくまった前からの知り合いの女の部屋。女は姿を消している。インドに自生する草は根から放射線を吸収し、これを使って兵器の所持を無力化することで革命を起こそうとセクトを立ち上げ、この家の二階で密かに栽培するうち、草そのものを紅茶に混ぜて飲むと気分が高揚することもわかってきた。

謎のまま姿を消した女、なぞめいた効能を持つ外来種の植物、愛憎劇も絡んでたしかにサスペンス風味。笑いは少なくて、積み上げて物語を作りあげます。もっとも、放射線を吸着する、という植物の特性は結局のところどうだったのか、学生運動でなければならないのかというあたりはは物語から置き去りの感じがしないでもありません。むしろ、その効能の方に物語が寄り添います。回想、妄想、現実がくんずほぐれつして進む語り口になれるまで少し時間がかかる感じはありますが、大きな問題ではありません。

幼なじみに頼まれて栽培を手伝う花屋の男の造型がわりと作りこまれている感じで、きまじめ、その友人へのあこがれに似た気持ち、離れていってしまうことの寂しさなど。演じた前田花男はなかなかにいいバランスで。刑事を演じた仗桐安はなんかよく見かける気がするけっこうモテ役。墨井鯨子は学生記者、突っ張って男に負けないように、というキャラクタなのだけれど、むしろ守ってあげなきゃな女性らしさがにじんでしまうのはなぜだろう。金沢涼恵はしっかりと清楚で可愛らしく、しかし理系だという説得力には少々弱い感じがしてしまうのは他の作品を通しての役者のキャラクタがないまぜになるからかもしれません。星耕介が演じた革命家の男、カリスマ性というよりは狂気を前面に押し出した造型で、確かにただ者ではない何者か、という雰囲気はよく出ています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

速報→「みなぎる血潮はらっせらー(福岡)」渡辺源四郎商店

2012.2.18 19:00 [CoRich]

2009年初演のコンパクトな65分で全国上演を目指す「らっせらープロジェクト」、初めての九州上演。19日まで大野城まどかぴあ大ホール(舞台上舞台)。

青森物産センター、アスパムの壁をよじ登ろうとして警察に確保された男は、赤づくしの戦隊モノヒーローのいでたちだった。何者かを名乗らない。本人は県立戦隊アオモレンジャーのリーダー、リンゴレッドと名乗る。

物語の骨子はそのままの印象だけれど、アタシの記憶では初演ではラジオドラマの制作者という感じではなく、そのままヒーローだった気がするんだけどどうだろう。九州上演に併せてご当地九州からも青森に攻めてきているシーンを追加。ヒーローというよりはそのラジオドラマを作っていた、仕事にかまけて家族を顧みなかった男の話。家を探す妻(住所がアトリエグリーンパークで、周囲の様子を描いていたりするのが密かに楽しい)、運動会にこない父親を恨みがましく思う娘となだめる母親、姉妹二人で父の日の絵を書いている風景など、「父親のいない家族たち」の風景と、ラジオドラマの戦闘シーンを交互に見せていくことで、長い時間野中で起きていたこと、男の仕事の結果と家族との乖離が蓄積していくことがテンポよく描かれます。

終演後に設定されたトークショーによれば、もともとはプロレスラーだった男の話を構想していたのだけれど、ミッキーロークの「レスラー」に先をこされた(2009年だ)と思い、作家の財産でもある青もレンジャーを軸にしたのだといいます。ヒーローそのままじゃなくて、そういうヒーローの番組を作る男の話、という物語の構成は少々複雑な感もありますが、子供や妻とふれあう時、その場を取り繕うような約束とそれを破られた側のはなしは、よりリアルさをもって、働き盛りの男の仕事と家族という物語のもつ哀しさはよりリアルに描かれるようになっていると思うのです。

これもトークショーによれば、なべげんの女優は誰も、この芝居が出来るようにしていて、いくつかの役者の組み合わせがあります。今回は中堅の女優ふたりの「りんご組」を。3人の役者、音響、照明、ドラマターグ兼演助のミニマムな構成でポータブルに運べる芝居なのだといいます。もっともパワフルな照明や音響の機材は運んできているようで、25時間もかけて青森から陸路運んできているとか。頭が下がります。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2012.02.17

速報→「僕らの心象風景における、いくつかの考察(A)」Minami Produce

2012.2.12 19:30 {CoRich]

95分、「出会うまで」を描くというふれこみのAバージョン。アタシはこちらしか拝見することができそうにありません。21日まで新宿眼科画廊。

高校の先輩と結婚している男。しかし男は別の女と出会わなければいけないとずっと思い続けている。ある日、飼い犬はが夢に現れて、ささいな日常の記憶を置き換えれば、変えていくことができるのだという。

今の自分は本来の自分じゃない、今のパートナーとは違う誰かと出会っているはずで、それこそが本来の自分なのだという思い込み。貫く愛といえば聞こえはいいけれど、自分勝手な思い込みともいえるこの想いを成就させようとする飼い犬のもつ想い。

「記憶を書き換えていけば、そうなっていく」ことや「それはひずみを生むかもしれない」という少々SFな仕立て。なんせ無茶な設定なのでここはさっさとそういうものだと思い込ませてほしいところだけれど、時間をかけて丁寧に描く前半は少々手間取る感じはあります。もっとも、そこさえすぎてしまえば、物語に没入できるのです。

書きかわる歴史、という意味ではキャラメルボックスの代表作の一つ「銀河旋律」が思い浮かんだりしますが、あれほどシンプルではなく、書き換えたいと思う男が主人公で、歴史がかわる方が物語の主軸になっているので書き換えられる側というのもあって、物語の後味は少々切なさが前に出ていて、この味わいはとてもいい感じです。

先輩を演じた、李そじんはその想いつづける過程が切なく、物語りの中で強い力を持っていて印象に残ります。思われる女、を演じただてあずみ。はBバージョンの方でメインとなるようで、両方で全体が完成する、という感想をネットでもみたりもするので、そちらが観られないアタシはちょっと残念。

リズムに乗せてのシーンが何カ所かに。物語り全体のリズムはもう少し静かに、ゆっくりと進む感じもあって、かならずしもこのリズムで貫かれている訳ではないので、私には少々の違和感があります。

<-- ずっと思い続けている先輩、それを無惨にも振ってしまうという話し。それは「ひずみ」として別の結末になるけれど、そして男は「彼女」に出会うことも結婚することもできるけれど、飼い犬がそれをしてくれるにはそれだけの理由がある、という切なさ。 正直に言うと、物語の頭のほう、「記憶を置き換えていけば、 -->

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.02.16

速報→「ハローワーク」国分寺大人倶楽部

2012.2.11 19:00 [CoRich]

国分寺大人倶楽部は2008年の作品を再演で。そういえばあのときもこれが最後とかいうアナウンスでした。130分。19日までBON BON。王子での初演と同様に爆音がきっちりなのが楽しい。

今作に限らず、いや、芝居に限らず記憶力が本当にザルなアタシです。が、細部は忘れていても箱を組み立てる工場の話という感じでよみがえる感覚。もっとも、気持ち悪がられる主任がアタシの立場の一つ、もう一つは真面目な35歳のバイトの切ない気持ちが、と思ってみていれば、初演のときも同じことを書いている自分自身。まったく進歩してないということに気づいて愕然とするのです。

配役についての前回のメモがないのですが、今作に置いては片桐はづきと大竹沙絵子の姉妹が印象に残ります。地味めに造型された姉、あれこんなキャラの女優だっけという妹。あるいは根本宗子のものすごい可愛らしさ。彼氏を演じた加藤岳史との終盤の電話の会話は実に巧くつくっているなと思うのです。

さまざまな人々にしっかりと物語が詰め込まれていて、濃縮した物語の濃さがあります。都会の片隅で一人で、あるいは肩寄せ合って働き、暮らしていくということ、その楽しさも、苦しさも、きっちり詰め込む確かなちから。

いくつかの公演に設定されている「おまけ」。「余韻を損なう」どころか破壊しかねないグダグダで小学生男子から中二男子ぐらいのくだらない台詞。こういうゆるゆるっぽい感じを作り出せるというのも、役者や演出の振り幅だなぁと思うのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.02.13

速報→「愛はタンパク質で育ってる」ぬいぐるみハンター

2012.2.11 14:30 [CoRich]

先月OFF OFFで公演したばかりなのに早くも新作、こちらは持ち味の疾走、ダンスが生きる100分。14日まで駅前劇場。対面の客席はどちらかというと通常の客席側に座るのが正面のようです。

デートする男女、バイト終わりを待っていたり、歩いて帰ったり。
ただひたすらに真っ直ぐ、目的地もわからないまま歩くしかない人々。神様の言葉のとおり、人助けの一行、教典探し、競争、気ままなバイク旅、ヒッチハイク番組などさまざま。やがてかれらはまっすぐな一本の道を、行く先のわからないまま、ずっとずっと進んでいく。

駅前劇場を対面客席とし、対角線に一本の道を置いたシンプルな舞台。白いシャツに黒いボトムな組み合わせの役者たちもごくごくシンプル。物語の方も、終盤で明かされる、旅する人々の目的というか目的地というワンアイディア。そこに至る「前に進み続ける人々」の古今東西の物語を自在に組み合わせて進みます。どちらかというと物語そのものを楽しむよりは、さまざまな役者たちのダンスだったり、疾走感を存分に楽しむのが吉。

物語の核となる男女ふたり。デートというよりは待ち合わせ、バイト帰りを待ったりと、ちょっとめんどくさくてちょっと可愛らしい女の子とその彼氏。物語の終着点はともかく、この二人のごくごく日常な感じの静かな恋人たちのシーンが楽しい。神戸アキコ演じる彼女は、少々のめんどくささを持ちながらも、かわいらしさの瞬間の瞬発力に思わずきゅんとしてしまう感じ。普段はなかなか見られない感じの役で楽しい。小動物から美人女優までふれ幅の大きい複数の役を演じます。 見続ける人を演じた浅利ねこのちょっとやさぐれた感じ、猫耳つけた黒木絵美花はちょっと卑怯な感じもありますが眼福。この座組では年長側な松本大卒もいつになく若い感じで軽やか、楽しい。

ネタバレ。

続きを読む "速報→「愛はタンパク質で育ってる」ぬいぐるみハンター"

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.02.07

速報→「今夜だけ / × / ママさんボーリング」MU

2012.2.5 17:30 [CoRich]

MUの新作三編というふれこみでしたが、新作一編と再演二編という構成で。120分。5日まで駅前劇場。

乞食が住んでいる川縁の廃屋。仲良くなった中学生も出入りしているが、勉強を教えるといって、主婦も出入りするようになる。かつて劇団を潰したこともあるこの女を探しているのは、夫と、興信所の男と「×」
南栗橋のボーリング場に集う主婦たちはフェロモンあふれて優しいイケメン店長目当てだ。中でもバツイチの元プロボーラーの女が一番惚れている。が、その店長の性癖は「ママさんボーリング」(1)
叫びと称してグチなどの投稿を集めるラジオ番組。投稿に夢中なママ友たち。恋愛ネタ、貧乏ネタなどそれぞれの得意ジャンルがあるが、愛犬をなくして夫が嗅覚を失った夫への毒を吐いている。その家には夫の弟も居候していて「今夜だけ」

駅前劇場を斜め遣い。客席をLの字に、舞台をその両端に渡すようにして、窓の向こう側にも導線を作って奥行きのある二カ所を作ります。 結局、人妻三部作というようなラインナップだけれど、物語の雰囲気はずいぶん異なります。

「×」何かを背負ったと思いこんで鬱屈して生きている夫婦と興信所の男、ラブラブなカップル、童貞の中学生たち、いろんな人生のステージ、というのとはちょっと違うかもしれないけれど、確かにそれぞれの人生が渦巻くよう。当日パンフによれば、罪と罰の、というけれど、これが芝居人々に帰着するのはさすがに作家がもっと若い頃に書いたものなのだという気がします。

コミカルに作られていて実に観やすい。「男は仕事して笑っていればたいてい大丈夫、でも俺は仕事してないから全部うまくいってないけど」なんてのはちょっとくすりと来る。台詞じゃないけれど、ボクサーが一般人を殴れないのに挑発されまくるから爆発してする事が子供かっていうおかしさ。あるいは「トラウマってダサいしイタいじゃん」という台詞の深さ、キレる一般人の怖さとか。

主婦を演じた西岡知美の業にまみれた感じがすごい。バカっぷるの女を演じた前園あかりがほんとうに心底可愛らしくて、バナナとはまた違う魅力。セックスのことが頭いっぱいの中二を演じたふたりのうちの一人、小西耕一が実にいい中二っぷりで楽しい。廃屋に火をつける、と人妻に火をつける、なんてくだらない台詞もたのしい

去年の秋「ウミガメのゴサン」で上演された「ママさんボーリング」はものすごく短くてくだらない爆笑編。運動音痴を略した「うんち」と排泄物との聞き違いというか誤解がいろいろ壊していく感じ。日常のどこにでも落とし穴というかほころびはあるんだろうな、という読み方もできるけれど、ほんとーにくだらないワンアイディアをどこに着地させるかという職人技が光ります。男の性癖について疑いをもった女が、その性癖を解き明かしていきそれでも好き、というあたりの鮮やかさ。

役者の名前そのままで演じられた初演の役名そのままで役者を変えるというコネタというか両方観ているアタシは楽しい。唯一同じ役者の前有佳はきっちり見ているという役どころをしっかり。 太田守信演じるボーリング店店長のフェロモン満載な感じもまた楽しい。橘麦は初演とは全く違うキャラクタに造型がまた別の魅力。

もともとの新作「今夜だけ」は三本にする予定をこの一本に凝縮。描きたかったことが何なのかということは今一つわからないけれども。笑いが多い前の二作に比べると、じつはわりと深刻な話しではありますが、それでも軽やかに描いてしまうのです。

心の中に沸いてしまった毒をどうするか、という話だと思うのです。ちょっとまえなら匿名掲示板だけれど、ネット社会ではそういう場所は他にはあんまりなくて、ならばラジオの投稿の方がというのは鋭い視点。若くない作家だからかもしれないけれど、演劇やってる人々の中でラジオを聴く人、当濃くする人の気持ちが分かっている作家なのだよなと思う奥行きを感じるのです。

二人で暮らしている家、徐々にたまっていく毒。ママ友との無駄話も、ラジオへの投稿も、その毒のたまる早さを少しゆっくりにするだけ。ひとつひとつはそうでもない、愛犬を「殺されて」しまったことだったり、弟を家に引き込んでそのあとはほったらかしで私のことを見てくれてないことだったりというものが積もりつもって、という終幕ちかくは圧巻です。色っぽさいっぱいの神谷亜美、清貧(というか貧乏)な主婦(じゃないよな、看護師だ)を演じた前有佳だけ、なぜ「前ゆか」と同じ名前、なんてのも楽しく。

MUの魅力の一つは、当日パンフなのです。あらすじと作品解説、配役それぞれの簡単な説明がついていて、芝居の成り立ちや物語の中身も芝居を見る前でも後でもきちんと楽しく読めるのです。これを自身で書くのを躊躇する向きもありましょうが、いわばライナーノートで芝居をよりたのしくするのに、これを真似するところがあんまりないのは、書くためにはまた別の力が必要ってことなのかもしれません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

速報→「ロゼット〜春を待つ草〜」ハイリンド

2012.2.5 14:00 [CoRich]

サスペンデッズの早船聡の描く女友達を核にした100分は見応えがあります。12日まで「劇」小劇場。

観葉植物のレンタル・販売を行う会社、中学生からの主婦の友達、職人だった男と、社長となって立ち上げた女。恋人と別れよりいっそう仕事に打ち込むようになっている。主婦は冷め切った夫との関係で離婚が頭をよぎるが、一人息子とだけは別れたくない。職人の男は社長に想いを寄せるが、言い出せないままでいる。その妹をアルバイトとして雇うことにするが、兄・妹の関係はこじれている。年末を控える中会社の業績は厳しい中よりいっそう仕事にのめり込む社長だが、彼女も悩みを周囲に相談できずにいる。

ずっと古くからの「ともだち」である二人。凛として周囲から浮こうとぶつかろうとも自分を信じて生きてきた女と、結婚し子供をもうけて仕事をするようになった女。強情だったり甘かったりとお互いの弱点だって知り尽くしているし、お互いをきちんと想いやっているけれど、互いの小さなズレがずっとずっと蓄積してきて、しかもそれぞれに年齢を重ねて学生の時のようにはいかない、ということも見えてきて。そのズレの暴発、その収束を丁寧に、ゆっくりと描くのです。

この二人の関係を核に、想いを寄せる人やその妹、あるいは羽振りのよい高校の同級生という三人を加えた100分。サイドストーリーではあっても、それぞれに濃密に描き出すそれぞれの物語もきちんとしていて、良質なドラマになっています。

社長を演じた岡内美喜子は意志の強い女を等身大に、「劇」小劇場という小さな空間をほどよく満たす造型。中に秘める思いが発露するかつての恋人との電話のシーンが好きです。主婦を演じた枝元萌は、悩みながらも力強く生きる、これもまた等身大。まさかのダンスで大受けの客席も楽しい。風俗の世界に身をおく男を演じた多根周作は、物語の主軸に絡まない分自由さが前にでていてコミカルで軽快で軽薄で楽しい。物語の上では「女の気持ちがわかってしまう」というちょっと魔法のような設定が特に前半の物語運びを軽快にします。職人を演じた伊原農は、実直さに説得力。その妹を演じた高安智実はメインの二人とは違う年齢軸であることが物語に深みを加えます。

役者集団であるハイリンド、突出した一人の役者というのに頼るでもなく、公演ごとに作も演出も変えていて、古典も現代劇もとさまざまなバリエーションを見せて魅力的で、今作の軽やかに語りしかしずしんとくる現代劇もまた新たな一面を見せてくれるのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

速報→「半島にて」オックスフォードパイレーツ

2012.2.4 19:00 [CoRich]

畑雅之、土谷朋子、小川拓哉の立ち上げたユニット、旗揚げ。力のある役者をそろえたゆえの静かに流れる会話、という印象の120分。5日まで明石スタジオ。

半島。高校教師と女子生徒、バス運転手と幼なじみの男、遠距離恋愛の女と同僚の男、ペンションのオーナーとその甥と、古い知り合いの客と住み込みの手伝いの女と変わり者の陶芸家。
久しぶりに会った幼なじみに女は結婚すると告げ、がんばれと声をかけた遠距離恋愛の女は有休をとって旅立つ。住み込みの女は別の家へ。

基本的には男女二人もしくは三人での会話をそれぞれの場所、半島という限られた場所の中で起きていることを細やかに描きます。

タイトルになっている「半島をまわる」ということはバスの運転手、訪ねてきた幼なじみの会話で描かれます。ゆるい田舎、久しぶりの顔、会話、ずっとずっと好きだった二人なのに、そういうことにならず、ずっときてしまって、今だってきっと好きなのに、でも彼女は帰ってしまう切なさ。演じた伊藤毅の軽快さ、あるいは原田優理子の可愛らしさや真っ直ぐさが実にいい案配で、この二人の会話の楽しさと切なさにやられてしまうのです。

あるいは町内の放送で毎日違う名前の女性と待ち合わせを知らせるという陶芸家の一癖もふた癖も。演じた平吹敦史(a.k.a バビィ)は怪しさと平穏さを両立。その女性、土谷朋子とのキスシーンの色っぽいこと。

決して若くはない教師二人のぎこちなさ、どうしてこれが面白いかきちんと説明できないけれど、中学生のようなぎこちなさをいい大人がきっちり演じるおかしさとでもいいましょうか。どちらかというとアタシの年齢にもっとも近い(それでも十分若い)、なんか冴えない男女の会話がこんなにも新鮮に響くというのはたいしたものだと思うのです。用松亮が客席を圧倒的に沸かせるちから、それを受ける上松頼子もその雰囲気をきっちりと作ります。

カップルの点描を描くというのは好きな感じだし、切なさ、きゅんきゅんする台詞もいくつもあります。が、正直に言うと、ゆるやかにつながっているかどうかよくわからない、しかも静かな会話の断片で120分は少し長い気もします。物語の芯というか外枠があるとずいぶん観やすくなりそうです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012.02.06

速報→「体育の時間」ラックシステム

2012.2.4 14:00 [CoRich]

ラックシステムの新作、「音楽」「国語」につづく「~時間」シリーズの三作めとなりますが、アタシは久しぶりに拝見します。わかぎゑふが描く昔の女性たちの物語はかなり強烈にコミカルですが、きちんとその人々の想いを。120分。5日までザ・スズナリ。

優秀な成績を残しながらも、国の資金も注目も十分ではないどころか、太股も露わなブルマ姿は恥ずかしいと思われていた時代。人見絹枝という輝かしい成績があってもなお、まだ競技をする女性たちへの世間の目は厳しく、国をはじめとした資金も十分ではない。新しくもうけられた女子体育高等師範学校に入学した女性たちはオリンピックを目指し日々を過ごしている。

スポーツをする女性たちを男性の俳優たちが演じるという趣向。女性らしく見せるどころか、単なる髭面のおっさん俳優たちもほぼそのまま。強烈にコミカルに振っているけれど、「見せ物」としてすら扱われてしまうというこの時代を描くには、それをやわらげる(というよりは毒をもって毒を制す、という感もありますが)効果があるように思います。

昨今、資金を集めるのに大企業一社に頼れずに、広く人々から、時に広告塔、時に見せ物になりがらも資金を集めるということは、わりとふつうに起こります。たとえばかの「なでしこジャパン」のチームだっていままではずいぶん苦労して資金を集めていたというようなこと、今作はそこへのリンクを感じるのです。

それでも単なるノスタルジーにしないところはさすがに商人の気持ちが分かる関西人、というべきか。中盤でわかぎゑふが語る「旦那衆の前で見せてほしい、資金は出すから」というあたりの語りが圧巻。商売になるから金を出すというのだ、想いは想いで尊重するとしても、金を貰うということをもっと厳しく、ということばに対して、野田晋一演じる校長がかつての人見絹江(wikipedia)が資金を集めたにもかかわらず成績がふるわなかったことをスポンサーたちに頭を下げてまわった、という語りの応酬がすごい。

物語としての強みは、実際のところこの語りの一点突破という感はあります。伝聞として語られるだけで、それが物語の主軸になっていないということはすこしばかり「逃げた」感がなくはないのですが、こういう語り方もまた、ラックシステム的な軽やかさなのだよなあと思ったりもするのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2012年1月 | トップページ | 2012年3月 »