速報→「星の結び目」時間堂
2011.12.31 [CoRich]
青☆組の吉田小夏の新作を黒澤世莉演出で時間堂として上演。120分。2日までアゴラ劇場。
東京、広い屋敷と庭園のある古い氷屋、豪快でたたき上げた先代だったが、それを引き継いだ二代目は生真面目ではあったが、時代が徐々に戦時体制となり厳しくなることもあり、商売は厳しくなってきている。職人も女中も多く抱えている家の中を切り盛りしているのは、未亡人となり戻ってきている長女で、徐々に苦しくなっているが、家の格を守ることに腐心している。ある日、海外に出ていた次男が戻ってくる。
戦前戦中戦後、階層的に語られる先代の時代を重ね合わせて、上流の「家」の中で起きていたことを丁寧に描いていきます。今まで作家が描いてきたもう少し下った時代よりは、作家には実感のないはずのもっと前の時代を描いていきます。着物姿も多く、しかも戯曲には「登場人物が直接体を触れるものには、具体的な時代の色艶がある」というかなり強い質感に対する指定がしてあったりして、舞台として立ち上げるのはけっこう大変なことだろうと思うのです。
男たちもしっかりと質感をもっていますが、やはり女性たちの描かれ方の方により質感があります。未亡人の長女はキリリと美しく厳しく気負い、戦後も恥ずかしいとはいいながらも、しっかりと生きているという感じが物語の柱になります。商売のうまく行かないことは彼女のせいではないけれど、まずいとは内心思いながらも、家の格を守るということに執着してしまうということの、拘泥のよしあし。あるいは働いて生きていくことがおもしろいと思う次女と長女の考え方の差、嫁の居場所のなさ。女中たちが明るく笑う家の中、あるいは「女」の存在。
作家自身が演出すれば、もうすこし女の色気が全面に出そうな印象はあります。あるいは一代目の男の豪快さはもうすこしファンタジーのように感じてしまうような気がします。今作の演出は、女性たちは日常の切り盛りということによっていて色気という点では薄くつくる反面、一代目は豪快で色気たっぷりに描くという差を(勝手に)想像します。
長女を演じた木下祐子の背筋の伸びた引き締まる感じはまさに適役。年上の女中を演じたヒザイミズキは語り手も兼ねているし、序盤、終盤の造型の質感。特に終盤で一瞬見せる色気の凄さは席によっては見えないけれど、実にいいのです。次男と一代目を演じた荒井志郎は格好良さ、スマートさと、豪快さを役によってしっかりと描き分けるダイナミックレンジ。職人の頭を演じた猿田モンキーは実にかっこいいと思うのです。
大晦日終演後に設定されたカウントダウンイベントはおそらく東京の小劇場界隈では唯一だったようで、ふたを開けてみれば大盛況。酒、年越しそば、おみくじ、ちらし寿司を思い思いに楽しみながら、時間堂次回作のさわりのリーディングや、「人間すごろく」なる観客とのゲームイベントを設定したりして午前2時まで実に楽しいのです。
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コメント
観劇誠にありがとうございました!
ていねいな感想ありがとうございます!
また大晦日のイベントにもご参加いただき、誠に嬉しく思います。
チラシ寿司は、協賛いただいた「小林農産」のお米を使用しました。
しっかり宣伝しよう、と思っていたのに、ついあれやこれやでお知らせしないままになってしまい残念です。
今となってはお味を思い出していただくしかないのですが・・・。
投稿: 木下祐子 | 2012.01.03 17:26