速報→「イエスタデイ」ブラジル
2012.1.21 19:30 [CoRich]
ブラジルの新作、とてもパワフルな役者陣も魅力的な125分。22日まで座・高円寺1。
母親を亡くしたあと、地方の一軒家に一人で住む父親。長女は仕事が忙しく、次女は結婚して実家を出ていて寄りつかなかった。一緒に住んでいた三女も、犯罪を起こして服役していた。ある日、三人の娘たちは偶然、同じ日に実家に戻ってくる。一人は破産、一人は離婚、一人は出所で。実家には、若い女が住み込みの家政婦だと云って、その兄と名乗る男と同居している。若い頃は寄りつかない実家、一息ついたというよりは、それぞれが行き詰まった先、最後の行き場として戻ってくる先としての実家という場所。そういうちょっとひねくれた感じのホームドラマ、という様相で始まる物語。
「三人姉妹」はそこに籠ったまま出て行かない(あるいは出て行きたいけれど出られない)姉妹のはなしだけれど、この三姉妹は出て行ったきり戻ってこなかったのが突然集まってくる、という感じ。その相手の男たちはたいていダメで(でも魅力的だったりもして)、女たちはしっかりと生きているけれど、なんかでもどこか抜けている感じなのはいわゆるだめんず的な描き方というか。
が、物語の根幹はそういうホームドラマなのに、奔放な、というよりは少々頭のおかしいのではないかという家政婦の存在が、コミカルなホラーという感じで疾走というか暴走していきます。それなのに、実家に収束するというよりは、新たな仕事だったり、更正の道だったり、あるいは就職だったりと、新たな道を娘たちが見つけていくという「旅立つ」ような着地点、なるほど、娘たちの成長の物語。暴走した家政婦は、愛情に包まれ、しかし新たな火種のまま、またどこかに現れそうなサスペンスホラーの終幕っぽい雰囲気も忘れません。この芝居、成長する人々のホームドラマと、サスペンスとちょっとコメディとがハイブリッドになっていて、あとから振り返って考えるとなんか不思議な仕上がりなのです。ウルトラQのコメディ風味、というとちょっと違うか。
近藤美月演じる家政婦、彼女が演じる気違いっぷりというのはもう芸の領域ですが、それをイタい感じから怪獣のように描くのはちょっと凄い。もはやオンステージ。長女を演じた柿丸美智恵の豪快さ、次女を演じた桑原裕子が次女らしい気配りと、その裏に隠れる陰の部分をしっかり。おそらく初めて拝見する肘井美佳は美しく、魅力的。中川智明演じる次女の夫のなんか優男と隠れた怖さのようなものの深さ、櫻井智也演じた男の深い深い愛情が実にかっこよく。
この劇場をけっこう高くかさあげしてお茶の間を作るというのは、実に見やすくていい感じ。座り芝居の多い畳の間をやる以上は、こういう配慮が嬉しい、と思ったのだけど、企みの作演、只では起きません。その舞台から飛び降り、まるで漫画のコマから飛び出すような雰囲気を作ったり、あるいは思いも寄らないところから登場させるドリフのような展開だったりと、効果的に使います。見やすくするための舞台に仕掛けを作ったのか、仕掛けを作ったら見やすくなっちゃったのか、はわかりませんが。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「三ノ輪の三姉妹」かるがも団地(2024.10.10)
- 【芝居】「ハッピーターン」劇団チリ(2024.09.29)
- 【芝居】「昼だけど前夜祭」劇団チリ(2024.09.16)
- 【芝居】「朝日のような夕日をつれて 2024」サードステージ(2024.09.08)
- 【芝居】「雑種 小夜の月」あやめ十八番(2024.09.01)
コメント