速報→「うつくしい世界」こゆび侍
2011.12.17 19:00 [CoRich]
こゆび侍の第10回公演は、ダークファンタジーっぽい仕上がり、奥行きのある110分。25日までサンモールスタジオ。
文明は後退し、缶詰だって発掘されたものを珍重しているだけな時代。 空気は汚れ、配給された「蓄空気」を持ち歩かなければならない。その空気は特権的な階級が支配する温室で育てられた「バラ」から得られている。貧しくとも仲良く暮らす姉妹、近所の夫婦に交換して欲しいといわれた「蓄空気」は壊れているが代替は途方もない金貨がなければ手に入らない。妹の学校の友達の男の子の家は金持ちだから、きっと蓄空気を余分に持っているに違いないから、盗んでこようと考える姉。 病弱で学校はおろか外にも出られない妹はその男の子のことが好きだが、声すらかけられなかったし、出られない今となっては姿を見ることもできない。姉はその男の子の家に忍び込むが、隣の部屋で親が汚く罵っているのを聴いてしまう。 はたしてその男の子に見つかってしまうが。
気持ちと裏腹の言葉というファンタジーといえば後藤ひろひとの「ダブリンの鐘突きカビ人間」という傑作がありますが、ケルトの雰囲気を纏うという意味でもどこか連想させるものがあります。それに勝るとも劣らない強度のある物語で、劇団のマスターピースとなるような風格すら感じさせます。
物語の骨格となる、「バラ」と愛情にまつわる言葉の物語がしっかりとファンタジーになっているだけではありません。「空気が汚れて」「文明が後退している」というのはどこか今の私たちの感覚にぴったり合いますし、「美しい言葉」というものの怪しさ危うさや「互いを監視することで生き延びていく時代」の怖さ、あるいは「いきすぎた上昇志向」など、寓話的に現代を織り込むというセンスの良さも光ります。 アタシとしてはボーイミーツガール(というよりはガールミーツボーイだが)な感覚、はしゃぎ時にちょっときつい言葉を投げ合いつつのほほえましい感じがなにか暖かで大好きな感じ。
これだけの物語を作り上げていることにもちろん賞賛しつつ、 正直にいえば、細部の仕上げに少々ひっかかるところがないではありません。たとえば言葉。空気を蓄える機械は「蓄空気」だとなんか違うしもしかして「蓄空器」なのかなぁ。あるいは普通の言葉だけれど「官吏」という言葉を使うかなぁとか。たとえばモチベーション。自由は奪われてしまうにせよ命をかけてでも逃げたり逃がしたりしなければならないほど何かがあるのかが今一つぴんとこない感じ。あるいは終幕で「バラ」に起きたことは何なのか、とか。あるいは仕掛け。誰が「バラのみずやり」をやってもいいわけではなさそうだけれど、想いが反映されるのならばそれは表面の言葉が汚くたって効くんじゃないか、とか。
浅野千鶴が走り回る快活な女の子を好演、けっこう珍しいタイプの役だけれどテンションもあって、印象的。病弱な妹を演じた小石川祐子はたぶん初めて拝見するけれど可憐さの中に見せる嫉妬の強さを絞り出す確かな力。男の子を演じた猪股和磨のなんていうんだろう女の子にモテてるだろうな明るさと可愛さの同居。廣瀬友美はついに母親という領域へ、あふれる愛情ということの説得力。ヒールに近い役どころの笹野鈴々音や永山智啓は軽い感じではあっても、支配する側の苦悩のようなものまで織り込む物語に応える役者の力が圧巻。福島崇之・浅川千絵演じる近所の夫婦の、自覚のない意欲正しく小ずるい小市民感覚の奥行きには闇や絶望的な気持ちを感じさせる何かが含まれていてちょっと怖い感じすら。
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コメント
ご観劇ありがとうございました!
ちくくうきの表記は、【蓄空機】です!
残りも頑張ります!
投稿: 佐藤みゆき | 2011.12.20 00:55