速報→「この世で一番幸せな家族」月刊 根本宗子
2011.12.17 14:00 [CoRich] アタシは初めて拝見します。105分。20日までタイニイアリス。
地方都市の小さな医者を営む家族。その医療行為に近隣住民から強いバッシングを受けているが、なんとか暮らしている。長男は引きこもり気味だが妹の友達が毎日のように部屋に通ってきて彼女らしいのに毎晩のようにチャットで別の女といちゃついている。妹とその友人は学校でいじめられていて数少ない友達どうし。妻は子供の頃から可愛らしく、告白してくる男は数知れず、その中からもっとも顔がよくて頭もよかった今の夫を選んだのだったが、夫婦となってしまうと昔のようにかまってもらえなくなったことが不満で万引きを繰り返したりしている。
ある日、20年ぶりに夫婦の幼なじみの男がこの家を訪れる。二人、とくに妻のことが忘れられずに思いあぐねてやってきたのだ。
現実というか、実際に生きていくということ、幸せの基準を微調整しながら折り合いをつけていくことという「大人になること」ができない人々をさまざまに描き出します。引きこもりの兄は一歩進んだ感じで、セックスの相手も居るし、ライブチャットで浮気もどきのことまでしてしまう、なんか時代だなぁと思ったり。妹はどこか本谷有希子ちっくな「ここから出て行きたい、白馬の王子様を積極駅に探しながら待つ」という感じだし、妻だってその幼なじみだって子供の頃のかつての想いがずっと持続するとおもっている。程度の差こそあれ、いい歳して独りもんというアタシだって、どこかそういう大人になってない感というのに苛まれる気持ちがあって、それを平成生まれという作家がずばりと刺してくるのです。
子供の頃、あるいは結婚を決めた頃のように楽しいことがいっぱいあってうきうきわくわくとしたまま結婚生活が続くと思っていた妻、夫が結婚や大人になることは現実とその夢との折り合いをつけていくことなのだと云われてもかわらず、受け入れてもらえないラブラブな気持ちを十数年も持ち続けている。夫への不満からの万引きというのはいくらでもネタとしてあっても、こういうかわいらしさからの発露というのはちょっと珍しい気がします。新谷真弓をこんな間近に見ることはずいぶんと久しぶりだけれど、年齢を重ねていてもそのかわいらしさを持ち続けているということの説得力があって、ぼおっと見続けてしまうように魅惑されてしまうのです。
子供の頃に強くあこがれていた女、その気持ちをずっと持ち続けてしまっているがゆえにほかの女にもいくことができない男、「幸せになりたいから」という理由で振られたけれど、今の幸せな姿をみれば諦められると思って再会を企てたのに、女は昔のままかわいらしく、しかも幸せだと感じていなくて、失敗したかもと思っている、という姿を見せつけられることのなんと残酷なことか。それでも手に手を取って逃避行、という風にはいかないし、女が誘ってもそれに乗らないと云う男、これもまたあこがれのまま大人になりきれないという姿なのです。
この家に居続けたくない、早く家を出て行きたいと焦る地方都市の女の子という長女、そのきっかけになりそうな「東京から来た男」に誘いをかける小悪魔風の。「私のことかわいいと思ったでしょう」という台詞を自分で書いて自分で云ってしまうという、自覚して武器にする過剰な自意識というのはちょっとすごい感じがします。演じた根本宗子もまた、可愛らしいというだけとは違った何か妙に説得力を感じます。
引きこもりだけれどモテる兄を演じた野田裕貴の可愛らしさ、思い続けてきた男を演じた山田伊久磨の煮えきらなさにいらいらしつつも、まあ、アタシだって人のことは云えないかと思い直して(笑)。
ネタバレかも
順当な家族崩壊の物語に見えて、実際のところ終幕近くで一転、なんかものすごいことになる物語の構成。ちょっと唐突だしそこに行くのかよ、と突っ込みたくなる感じがないわけではないのですが、ファンタジーというか、家族というもの、それを必死で維持しようとするのはどこか滑稽だけれど、実はとても暖かい話なのではないかとも思います。
病院が一時的とはいえ繁盛し、そして近所からのバッシングを受けるきっかけになった薬を医者が家内制手工業よろしく作る、というのは分業の進んだ今だとまあ荒唐無稽だけれど、物語に対してあまり大きな問題ではないように思います。
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「ガラクタ」MCR(2024.12.07)
- 【芝居】「シハイスミレ」Q+(2024.12.07)
- 【芝居】「地獄八景(じごくばっけい)」おのまさしあたあ(2024.11.24)
- 【芝居】「ビッグ虚無」コンプソンズ(2024.11.24)
- 【芝居】「おまえの血は汚れているか」鵺的(2024.11.23)
コメント