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2011.10.09

速報→「紙屋町さくらホテル」うたかた

2011.10.7 19:00 [CoRich]

平日夜の公演が有り難いけれど、終われば結構な時間の195分。9日まで松本・ピカデリーホール。新国立劇場での上演は観てないので、アタシにとって初めての「紙屋町」はがっつり井上ひさし節、それをしっかりと演じる劇場所属の劇団の上演です。

終戦まもなく、自分を戦争犯罪人として拘留しろと通う軍人に再会した男。二人はわずか半年前に広島で初めて出会った。慰問を目的とした移動演劇隊の宿舎には新劇の俳優が二人、演劇隊をつくったものの、役者がそろわず、地元の人々での上演を画策する。本拠地は「さくらホテル」。三日後に1200名の観客の前での演劇の上演をするのだ。富山の薬売りと名乗る男、傷痍軍人と名乗る男、方言研究の教授、ピアノの上手い女学生、宿の女将とその姪、そして特高の刑事がこの宿に集う。

劇場所属の30代から70代のシニア劇団。仕事もあるだろうに、この大作、しかもピカデリーホールは元映画館なのでタッパも高くて広い空間にもかかわらず、そこに負けることのないしっかりした役者たち。初日に関して云えば、台詞そのものが怪しいところがあったり、役者全員が巧いというわけでもないのだけれど、1800円でこの密度、飽きることのないしっかりした空間を作りだすのです。

もちろん、井上ひさしの手による戯曲の圧倒的なおもしろさに支えられている部分が多いというのはあると思うのです。こまつ座以外での上演を観たことがないので、戯曲だけでどうやっても面白くなるのか、演出や役者に負う部分が多いのかはよくわかりません。が、本作、井上ひさし節の空間がきっちり出現しているのです。

終戦間近の広島という場所、そこに新劇の演劇隊という枠組みのおもしろさ。役者、身分を隠した軍人、日系二世アメリカ人の女将を監視するための特高刑事、言葉に対して真摯な教授という振り幅の大きな人物たちをこの一カ所に集わせるだけの理由はたぶん創作ですが、この人物たちがその時代の軍人と民間人(特高がその中間に位置するのがまた面白い)の立場で対立する瞬間。井上ひさしという作家のめがねの奥に光る鋭い視線は、容赦がありません。まるで水戸黄門のごとく終戦を方向付けたり、特高を説き伏せたというのも創作だろうと思いますが、ある種の奇跡は確かに物語を面白くします。

戦争犯罪人を逃れようと汲々としている軍人たちの間にあって、この物語の最初のきっかけになる「自首する戦争犯罪人」と昨今の原発被害の企業を重ねるのはあまりに無茶なことだとは思うのだけれど、矜持という言葉を久しぶりに思い出すのです。

後半にある、(新しいものとしての)新劇と宝塚を対比してみせるシーンは面白い、というか勉強になります。女性を訪ねる男性の登場の仕方がたった三つのパターンしかないというあたりは少々の誇張と揶揄なんだろうけれど、この軽やかさが圧巻に面白い。個人的には新劇というフォーマットにあまり興味がなかったりもするけれど、今作は言葉が古びない力を圧巻で感じるのです。

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