速報→「ひとよ」KAKUTA
2011.10.23 14:00 [CoRich]
KAKUTAの新作、岡まゆみ、まいど豊などの客演陣を迎えて。110分。30日までシアタートラム。
母親は、突然家を出ていった。15年たったら必ず戻ってくると子供たちに言い残していた。社長をしていたタクシー会社は親戚が引継ぎ、こどもたちもなんとか成長した15年目の日、果たして母親は戻ってきた。
芯が強そうで周りになんと云われても信念を曲げないある種肝っ玉母さん風の母親を核に、健気にしかしその母親の行動ゆえに結果的に人生振り回される感のある子供たち。電気店勤務、スナックのホステス、東京でフリーライターというそれぞれの人生だけれど、母親が出ていった時点のそれとはちょっと違う感じになっていたりと、小技が効いています。
が、じっさいのところ、今作の深みは周りの人々のキャラクタに負うところが大きい気がします。 磯西真喜演じる若い恋人の居る女、バツイチだけれど前夫の母親の介護、子供のことを抱えながら、決して若くない冴えない主婦然とした感じだけれど、恋心に対してはなんかとてもうきうきしていて、内面が輝いていて、しかし介護している義母のことでは実に真剣で心労きわまっているという市井の「どこにでもいそうな」ダイナミックレンジの塩梅が実にすてきです。
あるいは、まいど豊演じる、元漁師という、中年はとうに過ぎた新人ドライバーの謎めいた過去は物語ゆえということはあるけれど、物語にわくわくする感じ。成清正紀演じるレゲエ風の男、外国人なのか日本人なのかわからないキャラクタの造型はちょっと浮ついた感じでバランスが危ういところもあるけれど、確かに客席を爆笑に誘い、要所要所にスパイス。
これだけいる登場人物たちそれぞれがきちんと物語を背負っています。子供たちもそうなんだけど、タクシー会社の従業員たちのそれぞれの人生。特に女性たちの描写は年代と立場がグラデーションのよう。弟と長髪の女の純粋にデートするかどうかの段階、結婚したはいいけれど夫とのすれ違いや価値観の違いに悩む段階、介護やバツイチを背負いながらも若い恋人とのうきうき、子供のことがずっと忘れられなかった母親といったぐあいに、メインのストーリーとはちょっと違うけれどもそれぞれの人物が魅力いっぱいに実に生き生きと描かれるのです。若い作家なのだけれど、こういう味わいのある人生を幾重にも描き分けるという安心感。わずか2時間の芝居なのだけれど、これでもかという詰め具合がお買い得感すらあります。
これで15年目、まだ若い作家ですが、物語のこの奥行き。幅広い年齢層、さまざまな人々に広くリーチする面白い物語を、地に足をつけてしっかりと描き出す力にはこれからも期待してしまうのです。
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