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2011.10.25

速報→「Archives of Leviathan」風琴工房

2011.10.22 19:00 [CoRich]

風琴工房の新作。青色LEDの開発の現場をモチーフにして、熱い男たちの物語として描き出す、サラリーマンにこそ見てほしい110分。24日までザ・スズナリ。

物語では「青い光」とか「半導体」というだけの言葉で、はっきりと青色LEDという単語自体は出てきませが、特許を巡る元従業員と会社の裁判というのは誰もがしっているあの話。もちろん創作もふんだんに盛り込まれているのでしょう。(wikipedia 1, 2)

物語の運びは、一人の突出した天才(タイトルの"Leviathan"、なるほど旧約聖書に登場する怪物)と、彼が親友と認めるほぼ唯一の男を軸に。小さな会社に突然現れた天才に振り回される開発室の上司や同僚、人事担当者たち。発明の成果は成果として認めながらも、天才と呼ばれた男をことさらに礼賛いっぽうというのではなく、かといって断絶した関係をことさらに掘り下げるのでもなく。むしろこの作品のもう一人の主役は「会社」という組織そのものだという、実に不思議な味わいがあります。少ない人数の人々の間の嵐と、それが生み出した圧倒的な発明は、もちろん一人の天才だけではなくて、それを支え投資し続けた会社の懐の深さのようなものをきちんと描き出す作家の視点、「仕事場における会社員のことを描ける小劇場の数少ない作家」だというのは間違いないなぁと思うのです。

作家は「男の嫉妬」を描きたかったのだといいます。その発明が生まれてほしくないと思ったり、その発明に近いところにいながらも自分の立場って何だろうと思ったりと、確かに会社の開発という現場ゆえの悩み。それが人間くさい男たちの造型につながっているのです。発明にまつわる心が躍るような感じは、実際のところ今作においては少ないけれど、その偉業やダイナミズムに拘らずに人間を描こうとした作家の確かな力を見せつけられます。

天才を研究者を演じた酒巻誉洋は癖が強い研究者をしかしあるバランスの中でしっかりと描きます。根津茂尚演じる、会社側(つまりは人事部)と研究者の板挟みの中で、しかしこの現場を支えるまじめなマネージャー像を説得力を持って。マネージャーといえば寺井義貴演じる人事部も人間くさく、しかしこちらも別の立場ゆえの真摯な姿。多根周作演じるフリーライターは聞き手という立場ゆえの私たち観客への橋渡しに安心感。今作において、圧巻なのは、岡本篤演じる高専卒の少々劣等感に苛まれる研究員。もちろん物語での描かれ方ゆえの「オイシさ」はあるのですが、それにしても序盤のはしゃぎ方(雨でずぶぬれ、を舞台奥で水をかぶるところから見せるのもちょっといい)も、終盤での少々屈折した想いもあわせて、今年はヒットな役が多いなと思うのです (1, 2)。

もう一つの魅力は、格子状に組み合わされた棚のような美術。壁面を覆うような空間は、時に冷たい感じすらするけれど、青ベースの照明が実に美しくて、会場中からぼおっと見とれてしまうほどのすてきな美術なのです。

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