速報→「ナツヤスミ語辞典」キャラメルボックス×柿喰う客
2011.8.6 19:00
キャラメルボックスが別劇団と組むアナザーフェイス、久しぶりの公演。柿喰う客の中屋敷演出で。120分。11日まで新国立劇場小劇場。配役をシャッフルする乱痴気ステージも評判だったよう。
端役の仕事で足を痛めて家にこもっている男のもとに、もと勤めていた学校の生徒たちから夏休みの宿題だという手紙が届く。夏休みのちょっとした事件のことが書いてある。
中学二年生の夏休みの補習である水泳がイヤで毎晩プールに忍び込んでは水を抜くヤンマだが、見つかってしまいかばった友達と罰を受ける。その晩、ふたたびプールの水を抜こうとするヤンマ、それを見張ろうという同級生はなぞめいた女や男と出会う。カメラマンと名乗る男が撮った写真には、人影はおろかプールさえも写っていない。この学校には夏にでる幽霊の噂があり...
キャラメルの初期作品で、2003年の本公演を観ているものの、印象が薄れてしまっているアタシです。劇団10周年記念のPHOTO BOOKにあるあらすじを読んだ感じでは、演出こそ大幅にポップになっているものの、物語は原作に実に忠実な感じ。たった一粒の物語の種を共通にしながらも物語を悪意にあふれたものに作り替えた名作(実に面白かった)とはさすがに本家ではそうするわけにもいかないのでしょう。本作は原作に実に忠実で、しかし演出の新しさが印象に残るのです。
夏休みを終わらせなくてもいい、という物語の骨格。来年は受験でやりたいことができないけれど、今年はやりたいことを存分にやるのだという「ほんとうに沢山の休み」という夏休みってものの記憶はアタシには遠い日のことだけれど、それは中学生たちだけではなくて、教師を辞めて役者という没頭したいことに突き進むという決意もまた、ナツヤスミの物語なのです。
柿喰う客では十八番の八百屋舞台をも遙かに越え、強烈な段差(サンシャインシティの外の階段広場のよう)の、しかしシンプルな舞台。上り下りするだけで大変なことになるし、降りてくるときは直滑降のよう。千秋楽まで怪我のないようにと願うばかりです。この舞台を走り回る役者たち。腰を落とした独特の安定感は柿に一日の長があるけれど、普段の芝居とこれだけ色合いのことなる芝居にしっかりとついていく力もっている(まあ、若手だからなんとかなってる、ということはあるかもしれないけれど) キャラメルボックス陣、客演陣もたいしたもの。
オリジナルでは中心となるヤンマを客演の熊川ふみ(ここは歴代、ボーイッシュこそが持ち味のポジション)を据えたり、コミカルと格好良さで要を締める森下亮、オープニングの勢いを飾る川田希(この座組のなかでは背も高くないし、年齢だってけっして若い方じゃないのに、この舞台の大変なこと。驚いて気絶したあとの下手側での小技にわく客席。)といった具合に柿とのコラボにとどまらず、今の時代の若手の役者たちを贅沢に存分にという側面が見えます。
代わりに柿喰う客の役者を、三人ずつほどのちいさな集団(クラスタ)の中心に配するのは、大人数での柿の公演でみられる配役の手法。オリジナルとは人物たちのバランスが少しずつ変わっている感じはありますが、それを補ってあまりあるほど、世界に深みが生まれているのです。 意地悪な同級生たちはコミカルの要で、まるで漫画のようなふくれっ面が強い印象を残す七味まゆみ。ヤンマの母親は一人で娘を育て、こんなシチュエーションでも信じ続けていたという心の強さをコロ。ある種ヒールな水泳教師をどこまでもコミカルに造型する村上誠基。もう一つの同級生たち、友人クラスタで物語のきっかけをつくる役どころを深谷由梨香という具合に実に巧みな配置。
迎えるキャラメルボックスの役者、若手劇団への客演にも積極的で客席でもよく見かけるぐらいにきちんとほかの芝居を見ている渡邊安理がクールな美女をきっちり。 物語の語り部となる多田直人、若手だとおもっていたらさすがの貫禄すら感じさせます。
写真がフィルムだったり携帯電話がなかったりと、さすがに物語は時代を感じさせるようになっていますが、なんせ夏にふさわしい幽霊はデジカメではサマになりません。演出がこんなにポップになることで新しい命が吹き込まれた一本になっているのです。
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コメント
父の形見の銀塩カメラって、いい感じです。写真好きって感じで。
その他のカメラは、デジカメ。
初演から時間が経っての効果ですね。
投稿: Buchi | 2011.08.09 00:28