速報→「不識の塔」野の上
2011.8.20 19:30
野の上の新作は実在の人物をもとにした作家の創作だという75分。下手側やや後方(青い椅子)がオススメですが、ああしはうっかり下手最前列で。パンフに折り込まれているマンガ仕立ての「斎藤主物語」をぜひ事前に予習を。21日までアゴラ劇場、そのあと青森公演。津軽弁というインパクトが印象的な劇団ですが実は女性たちの会話のえげつなさと日常のミックスこそが魅力。同じ魅力の前回公演の「臭う女」の京都公演が10月に予定されています。
青森のある小さな村で灌漑を成功させたもののその後の原野の開拓には協力を取り付けられなかった男。そのあとに寺を煉瓦造りで移築したり塔を建築たりしたが、その病床の末期。妻と二人の妾たちが遺産を目当てに集まっている。生前の告知で知らされたのは、三番目の妾の存在と、自身の遺体をどうするかについて、だった。
モデルとなった斎藤主(さいとうつかさ)の子孫たちも来場しているとか。それにしちゃかなりヒドい描かれようではあります。いわゆる田舎で「浮いて」しまった男、その孤高ゆえの寂しさの先に妾たちという存在をベースにしています。病床に伏せって意識も危うい男の前での女たちの会話が物語の骨子。チクチクと嫌みを云ってみたり喧嘩してみたりするのに、いざ決行という時になれば一致団結という繋がり。相続というカセでその場から離れられないという場を作るのは巧い。
後半にはちょっとサプライズ。人間の背丈ほどの高さの上面が見下ろせる高さに観客の視点があるとベストなのだけどあたしが座った最前列ではそれが見えないかわりに、座り芝居の多い前半を堪能。もっとも、あたしの観た土曜夜の回、トークショーによればそのサプライズの仕掛けに失敗したのだそうで、結果的にこの回に限れば最前列でも問題なかったので、まあよしとしましょう。
本妻という立場ゆえの強さ、妾ゆえに想ってもらっているという強み、あるいは病的ですらある男の拘泥ゆえの想われの強さ。それを女たちのそれぞれにきちんと語らせていています。男側が本当はどう思っているのかは検証されたりはしませんが。孤高故の孤独、それゆえの歪んだ愛情が人間くさくて実に楽しい。
劇場での打ち上げを終演後に知り合いに限らず客席一般に呼びかけるフレンドリーさも芝居一座っぽくて楽しい。なかなかそうもいかない昨今ですからこれは楽しい感じ。装置も近寄って見せてもらえたりして、お得感があります。
藤本一喜は中堅として難しいバランスをきっちり。乗田夏子はいままで先頭を切ってディープな津軽弁だったところ(なんせ、方言指導だ)を今作ではもっとも標準語に近くて観客へナビゲーターとしての役割。 結果、三上晴佳がもっとも難解な津軽弁という位置づけの「山に住んでいる」役に。ほとんどなにを云ってるかわからないところもありますが、物語がそう込み入ったものではありませんから、感情の起伏を追いかけられれば大きな問題ではありません。さすがにこれだけの方言となるとこの若い役者のとっては訓練の賜物のようです。 若い役者ですが、本拠地のナベゲンでもここ野の上でも力をめきめきつけている感があって見応えがあります。
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