速報→「パール食堂のマリア」青☆組
2011.7.30 19:00
青年団リンクをはずれた青☆組、10周年の新しい一歩。120分、7日まで三鷹市芸術文化センター星のホール。 前半のソワレにはトークショーを設定。
港町の繁華街の一角、小さな食堂を営む一家、父親が店主、住み込みのコック、姉はかいがいしく働き、妹は教師となっていて、同僚の男性教師と近づいている。向かいのバーの店主は野良猫を引き取って飼っているが、もうずいぶん見送っている。妹の教え子は難しい年頃の男子、その母親は美容院を営み店の常連だが、資金繰りに頭を悩ませている。ストリップ小屋の売れっ子は内縁の夫の浮気で喧嘩をている。
今までは春風舎というごく小さな空間が主だった彼らが選んだこの劇場。数多くの劇団がこの舞台の広さに苦労する難しい劇場だと思うのですが舞台をめいっぱい使い裏通りの街角を出現させ、階段の多い路地という場所を設定したのは正解で高さ方向にも空間をきちんと埋めています。横浜いうよりは横須賀っぽいなぁと感じるのは、まあ時代の違いやあたしの思いこみでリアルじゃないということではありません。
横浜の伝説の街娼、メリーを思わせる一人の女と、猫と名付けられた町を眺める視点を配しながら、ごくごく小さな繁華街の裏通りでの出来事。敗戦の記憶はまだ町に残っている時代(戯曲によれば昭和47年の設定だそう)。ちょっとしゃれた外国の風景かと思えば、食堂の中の昭和を感じさせるテーブル、イス、姉の風体など中心でここが日本であることを確かに。
いままでの見慣れた青☆組とは少し違う雰囲気を感じます。群像劇であること、余白が多い芝居であること、必ずしも作者の肌感覚が届く人々の物語じゃない、というところが新しい感じで、そういう意味では手慣れてるというわけにはいかず、10年目、青年団からの独立という新しいチャレンジの気合い。
チラシに書いてある群像劇、というのをすっかり忘れていて中心となる物語を探しながら観てしまったアタシはちょっと失敗で、なるほどこの街に住み、稼ぎながら暮らしている人々の話をベースに、去った命に目を配って、パンフォーカスのように全体が一つのトーンの中に、どれかに特段ピントが合うわけでなく、全体とした街を描き出しています。アタシの観た土曜夜のトークショーでMONO主宰・土田英夫の指摘した「ダブリン市民」(wikipedia)は未見ですが、きっと同じ印象なのかな、とちょっと嬉しく。ネタバレかも。
男たちは駄目だったり幼かったり頑固だったり何かの欠陥を抱えていたりするけれど、みな愛すべき存在として。女たちはみな何かを包み込むような、それは子供だったり家族だったり教え子だったり客だったり男だったりだけれど、なるほどそれはマリアだな、と思うのです。それはtwitterやblogで見かける作家の「マリア」っぽさが見え隠れするよう。妹の終盤の嘆きにしても、姉や美容院主人やストリッパーの苦悩にしても、それぞれわりと深刻なのに、あくまで彼女たちはマリアで居続けるのです。
鞠子の名前が似ているから彼女の物語かと思っていると少々ミスリードされてしまう感じは拭えませんが、それもチラシには「群像劇」って書いてあるのだから、文句つけるところというわけではありませんが。
正直に言えば、「M」と「ナナシ」の二人が演じる過去の場面が少々わかりにくい感じが惜しい。演じる役者の技量を買っての構成だと思いますが、たとえば終幕近くはまさにこの二人(つまり街娼とその子供)なのに中盤でよく似た風景はミッキーと母親の過去の話だったりするのが見分けづらいのに少々戸惑います。戯曲にはきっちり役名が記載されているのではっきりとわかるのですが。
福寿奈央が演じた姉はけなげさと強さをきちんと体現し印象に残ります。林竜三が演じた町内会長は酒におぼれヒモ呼ばわりされても怒らずどこまでも女たちを支える軽い感じがちょっといい味です 。売れっ子を演じた小瀧万梨子はかっこ良く、アネさんらしさで、踊りも扇情的に魅力にあふれます。荒井志郎演じた同僚の教師と高橋智子演じる妹の熟成していく時間のゆっくりとした流れが少しのドキドキと心地よさ。
Mと猫という二人の役者を使って別の時間軸を描き出す体裁はファンタジー感を支えます。演じた木下祐子と大西玲子は、さまざまな人物を演じているにもかかわらず、一本筋の通った凛とした感じに説得力。
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