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2011.08.29

速報→「くすり・ゆび・きり」エビス駅前バープロデュース

2011.8.28 18:00 [CoRich]

離婚式を挙げるカップルたちを中心にした想いのすれ違いを描く65分。30日までエビス駅前バー。チラシなどの割引のほか、薬指に何かをつけるだけで割り引きなどを設定。チケット代のほかにドリンク代が別途かかります(ビール¥650など)

女は駆け出しの作家でまだ食えない彼女に対して売れるまでは自分が会社員として稼ぐとプロポーズしたこのバーの上階フロアで、離婚式が執り行われる。あの時は急死した夫の跡を継いでこのバーのマスターとなったばかりだった女はまだこの店のマスターをやっている。 司会の男、幹事とその妻。いたたまれない会場の空気から逃げるようにしてこのバーに入れ替わり立ち替わり。スキャンダルをかぎ回るライターやら、この店の常連で階下のダイニングからケータリングで運んでくる店員もその場に混じり。

エビス駅前バーといえばの作家・米内山陽子の脚本に、新たに板垣雄亮の演出というコンビ。どこか余白というか、空気を完全に埋めないというある種のゆるさと間が持ち味な演出の仕上がりになっています。情報量は相当に多いし、時間もぎゅっと1時間程度ですから、濃ゆい感じになるのが必至かと思えばそうでもない、というのはちょっと意外な感じもあります。

相手の何に対して自分は結婚したのか、敏感に感じ取った相手がとった行動が離婚式、というのが全体の枠組み。相手の何を好きだと思ったのか、というのは情緒の問題になりそうなものだけれど、女性の本作の作家、わりとクールな見せ方で、相手の才能だと言い切ります。 あるいは、もてる夫にやきもきする妻と浮気相手だけれど、一方的に妻を被害者にしないのもわりとクールに。

だてあずみ演じる食堂店員は、序盤から飛ばし気味できっちりとかき回します。中盤以降はマスターに取って代わるように離婚カップルの間にたったり、あるいは恋人にやきもきしたり。表情がくるくると替わって目が離せない感じ。特にカウンターの向こうで首から上だけを出して首を傾げたりというだけの表情が実によくて。あるいは浮気を公認した妻に驚愕する終幕近くの表情はかわいらしい。

鈴木麻美演じる妻が浮気相手と会い、後から現れた夫に、「お友達?」と訊ね、互いの紹介をしてほしいというのに夫が気づかず、再び妻が語気を強めて「お友達?」と訊ねるあたり。なかなかお目にかかりそうでかかからないこういう細かな会話ひとつとっても絶妙です。その後に徐々に三角の辺が延びたり縮んだりするような感じが実にいいのです。名前を訊ね、だって奥さんというのは嫌だというのも、雑ないいわけ、口止めもしないことに浮気相手が内から怒るという絶妙。たいへん失礼ながら鈴木麻美はどうしてもこういう不幸というか理不尽な仕打ちの女をやらせると実に強くて印象的で大好きなのです。ほぼ巻き込まれ側の司会を演じた島田雅之も、こういうポジションで汗をかきながらな感じがじつはよく似合うのです。

生きてるんだから、話しなよ、いってたしなめるシーン。死んでしまうことが見えない老後よりもわかりやすい、ということなのだけど、それはゲイゆえに老後より死がより身近に感じてしまう、というのは深読みし過ぎかなぁ。単に著感的に考えやすい、というだけの気もしますが。

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