速報→「処方箋ライター」れんげでごはん
2011.6.19 14:30
松本の劇団、「れんげでごはん」の新作。松本ではもっとも気になる劇団で、わりと大きなピカデリーホールの客席がきっちり埋まる人気のエンタテイメント指向。他劇団とのハシゴが可能なタイムテーブルは嬉しいところだけれど、平日遅めの時間で観られると嬉しいのにな、と個人的には思う75分。19日まで。
薬局に勤める薬剤師の女。同僚の冷たい視線をものともせず、仕事そっちのけで小説を書いたり、客を捕まえて感想を聞いたりしている。ある日、店で見慣れない薬を見つける。効用に「飲んだ人に勇気がわいてきて、躊躇することを後押ししてくれる」とある。半信半疑だが、来た客に飲ませてみると、無くなったはずの漫画本を隠し持っていることを白状したり、バイトの面接に行きたくないといってふらふらしている女が突如面談に向かうと言い出したり、勤め先の先輩に想いを寄せる女が勇気百倍で家を訪ねると決心したりと、効果はてきめんで、 ものすごい効果だと思われたが、向精神薬を処方されている男に前向きになるように飲ませてみると、 決心をしたといって、カッターナイフを取り出してしまう。
小説を考えて読み聞かせてみると、窓を模したカーテンが開いて劇中劇のように寸劇が展開。世界の誰かが死ぬ代わりに自分の願いが一つ叶う話だったり、勇気のでない消防士の話だったりと、どこか残酷な童話の話だったりして、「人間風車」や「パコと魔法の絵本」風の体裁の後藤ひろひとが頭に浮かんだりしますが、それ自体は物語の核ではありません。でも、この序盤のテンポは見やすくて、芝居の世界に引き込まれるよう。
不思議な薬を見つけて次々現れる客があまりにコミカルに前向きの勇気を貰って出て行く中盤のあたりはコミカルでスピード感があってかなり楽しい感じ。コント的でもあるし、そのちょっとオカシめの人だったりと、客席もかなり沸いて楽しい。
その不思議な薬が必ずしも前向きの決断だけを後押しするというわけではないことが見えてくる後半、 たとえば童話のどこか教訓めいた感じの仕上がり。物語の着地点を探してすこし停滞しているという風に感じられなくはないのだけれど、思い過ごしかもしれません。
キャスト表に役名がないので、実はちょっと役と役者があっているのか自信がありません。小さなコミュニティだから、知り合いの客は多いとは思うものの、そうではない一般の観客を取り込むのならば、そこを明かさない特段の理由がある訳じゃないから、役名がとの対比表が欲しいところ。だから間違っていたらゴメンナサイ。
薬剤師の女を演じた馬渡理子はほぼ出ずっぱり、自分勝手をとことん推し進めて振り回す序盤、どこか憎めない可愛らしさを併せ持っているコメディエンヌから、振り回されてみたり、あるいは人の想いをきっちり、というさすがに中心に居続ける確かなちから。加藤吉はいやみな上司を一貫してきっちり。宗基は気の弱さ、実直さが見えるようで物語の要をしっかり。渡辺千春は、すこしおかしな人、という役どころだけど、コミカルに徹していて間合いの面白さとあわせて実は安心して笑える感じ。小澤鮎美は可愛らしくて、でもストーカー気質というあたりに説得力のある可愛らしさ。常連客を演じた遠藤優はちょっと説明がめんどくさい序盤のシチュエーションを観客に力づくで納得させるちから。(役者名を誤解していました。劇団blogの情報で訂正しました。2011.6.21)
松本市の小劇場文化の核となるのはこのピカデリーホールだと思うのですが、 三鷹芸文はおろか、吉祥寺シアターよりもタッパのあるスカスカになりがちなこの大きな空間を観客数の点でも劇作の点でも埋めるのはたいしたもの。劇団のフラッグを劇場に掲げたり、劇場ロビーに薬箱を沢山並べて薬局風にしたり、あるいは(前売りたった1000円なのに)劇団ロゴ入りのクリアファイルを配ったりと、たとえばキャラメルボックスの過剰ともいえるサービス感溢れる感じは近いモノがあります。芝居の楽しさだけじゃなくて、こういう小技も劇場に来た楽しさがあって、一般の観客をとりこむだけの確かな力があるなと思うのです。
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