速報→「泣けば心がなごむけど、あなたの前では泣けません」世田谷シルク
2011.6.5 14:00
世田谷シルクの新作。主宰が好きなのだという「クレヨン王国のパトロール隊長」に原作をとった140分。6日まで「劇」小劇場。
自然環境クラブに所属する高二の日登美。幼なじみのヒデオと一年生なのに何かとつっかかってくるマサタカ、顧問の右田先生の四人で自然公園に出かけた夕方。岩場で絵を描いていた日登美にふざけてマサタカがクレヨンを崖に落としてしまう。喧嘩して駆けだした日登美が気づくとクラブからは離れ、「王国」に迷い込んでしまった。
日登美は選んだ服からパトロール隊長に任命されたが、その王国では火の精と水の精が戦争をしていた。
よく知らなかったのだけれど、47冊からなるシリーズの「クレヨン王国」(wikipedia)の物語の中の一編を原作に。心に傷をもつ子供が王国に迷い込むというのが基本のながれなのだそうで、今作においても、再婚した父、継母、その連れ子たる妹、妹の事故という背景をもった女子高生が主人公。原作にあるとは思えないのだけど、男の教師との間の心の傷だったり、リストカットという要素もあったりします。
リズム、音楽、振り付けという部分が相対的に少なくなって、物語に重点を置いた描き方という印象。ベースとなる家族の物語と、それを投影するかのような王国と戦争の物語を実に丁寧に。ファンタジーらしく、草花や動物たちがはなしたりするのはコミカルに可愛らしく描きますが、全体の印象はどちらかというと静かで寂しさが漂う感じに描かれています。
正直にいえば、劇小という空間は、この物語を世田谷シルクが描くには少々狭いという印象は否めません。あいているのをいいことに再前列中央に座ってしまったアタシは、すこしばかり長い上演時間と、再前列ゆえに全体が見渡しづらかったというのは少々誤算で、今作に関していえば少し後ろから俯瞰で観たかったなとも思うのです。実は広い空間の方が向いているのじゃないかとも思ったりして、世田谷パブリックシアターでの公演も予定されているようなので、実は楽しみだったりします。今作では狭さを生かした部分もあって、いくつも置いたモニターや、あるいは劇場に風を巻き起こすような演出はこの空間だからこそできることで印象に残ります。
何かのトラウマを抱えたというところを女子高生に設定したからか、教師との問題という別の側面を加えているのは、作家らしい感じがします。
主人公を演じた下山マリナは陰の部分の多い役だけれど、なぜか弾けるような「生」を感じて、ほぼ出ずっぱりの役をきっちりと。教師と「病気を収集する怪物」を演じた半田周平は怪しさいっぱいを時にコミカルに時に怖いぐらいに。幼なじみを演じた堀雄貴は思いやりに溢れやさしく、妹を演じた野村美樹は可愛らしく。序盤の「王国」という飛躍をコミカル織り交ぜ観客を乗り越えさせるという点で前パトロール隊長を演じた高見靖二の力もしっかり。要塞攻略を伝える運び屋を演じた堀川炎の突き抜けたコミカルは実に楽しい。
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