速報→「珍しい凡人」箱庭円舞曲
2011.5.4 19:30
新しいテイストを感じさせる箱庭円舞曲の新作。120分。11日まで駅前劇場。
兄の住む家と、戻ってきた弟の住む母屋。兄は結婚して妻と大学生の子供の三人暮らし。妻の妹は40近くになっているのに仕事もせずに金の無心をするばかり。弟は東京から戻ってきて、アートのNPO法人を立ち上げ、アーティストを抱え、webの展開を本格的に始めようとしている。もともと絵描きだった弟を助けたいと東京から訪れる女も居る。目と鼻の先に済んでいるのに、兄弟はほとんど顔を合わせることすらない。
ストが激しくなり、物流も交通もまともに機能しなくなり始めているが、このあたりはまだ、なんとか大丈夫なある日、兄は裁判員に選ばれて教師の仕事をしばらく休むことになる。
舞台は中央にあり、客席は入り口側手前と奥の対面に設定。舞台上の飛び石を渡って(それ以外は土なので石の上を渡るように繰り返しアナウンスするけれど、導線として少々無理な感はあり)奥にいくというのも捨てがたい(あたしが座った席)けれど、きっとリビングのテーブルの前も捨てがたい。庭とリビングという二カ所を横長に配置しているのと、客席の対面というのは結構難しくて死角も多いし座った場所で見える情景が違うというのも正直いってある気がします。リビングなら家族をとりまくこと、庭なら自分の生きることや仕事ということが中心の視座に見えるのかな、と思います。
あたしにとっては「仕事の現場」という印象の強い彼らなのだけれど、家族や兄弟の問題を核にして、それをとりまくさまざま、たとえば裁判員のこと、アーティストやNPO、そのファンと名乗る人々、ネットの噂の影響の大きさとそのきっかけのアンバランスなどをぎゅっと濃縮し弁当箱に詰め込んだよう。おそらく執筆の途中で起きた震災はそのままの形ではないものの、「揺れて」みたり、ストでさまざまが麻痺していたり。時事ネタはあまり描かない作家だけれど、さすがに影響なしというわけにはいかないようで、しかしそれを片鱗として、フレイバーにしてしまうすごさに舌を巻きます。それでもすこしばかり題材が多くて観ているアタシが整理しきれないというところはあって、戸惑う感も少しばかり。
ネットの噂の些細な発端と自覚のなさ、その影響の大きさとそれにうろたえるというアンバランスの怖さ。それをきっちり演じた湯舟すぴかは美人という役が多いところをあえて恋人のできない40前という役に据えた配役の妙。
押し掛ける女を演じた小笠原結は少々病的なほどに一つのことしか見えていないという怖さに、時たま可愛らしく見えてしまう瞬間、あるいは突進したときのすごさなどをあわせ持つ感じ、若い役者ゆえに比較的派手な演出が効いてきます。
裁判員の女を演じた清水穂奈美、おとなしさとある種のやけっぱちのギャップは「私」と「社会」のもっとも激しいぶつかり合いをたった一人で演じる難しさがありますがしっかりと。 行政書士を演じた片桐はづき、あんまりそう見えないというのがご愛敬だけれど、もっとも「世間」を体現する大切な視座。
もう一つの、ビジネスという「世間」を担うのが情報の仕掛け人を演じた小野哲史。怪しさいっぱいでときにかっこよくスタイリッシュ。ちょっと惚れてしまいそうに素敵なのです。
正直にいうと、アタシたち会社員をとりまく仕事の現場の物語を実感を持って描くことのできる数少ない作家だと思っているので、芸術や家族の物語を選んだということは少し意外な感じもします。それでも、芸術家の苦悩というよりは、それをとりまくビジネスの話、として描かれていることでアタシにもある程度実感を持って感じ取れるという気がするのです。
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