速報→「ネズミ狩り」チャリT企画
物語。
古くからある町のそば屋。父親が亡くなったあと、長女が店を切り盛りし、従業員の男が父親の味を守っている。父親は協力雇用主として少年院を出た若者たちを雇い、見守り続けていたが、それはほとんど明かしていなかった。そんな父親だったが若者の喧嘩の仲裁に入ったことで、若者にナイフでめった刺しにされて亡くなった。因縁つけられた若者も殺されて、母親は極刑を求めて運動をするが、父親を亡くしたはずの長女は極刑を望まないばかりか弁護側にまわろうとする。そんな姉を次女はどうしても許せない。従業員は味を守っている男のほか、若者、アルバイトの女子学生、数年つとめているパートの女性が居るが、記事のネタを見つけた雑誌記者との会話から、明かされていなかった協力雇用主のことを知ってしまう。
知らせない方がいいこと、知らなかったこと、屋根裏を不気味に走り回る「ネズミ」の存在と同じで、何かのリスクだという不安、本当に確かめることなくその増大する不安とは正面から向き合うことなく、「排除する」という対処法しか取り得ないのです。犯罪者を雇うなんて、という不安はしかし、いつ、なにがきっかけでその排除される側にまわるかもしれないという終幕近くの出来事や、あるいは屋根裏を走り回るネズミが本当は何なのか、を(物語の中では私たちの良心たる)長女すら、確かめようとしない、というのは、作家が私たち観客に突きつけて逃げられないのです。
こんなに重い物語なのに、びっくりするほどそこかしこに笑いがちりばめられます。噂話をする人だったり、蕎麦アレルギーの長男が組んでいるバンドだったり。それぞれが割と切実に真剣に生きているのに、いろんなずれを感じて笑うのです。
被害者の母親の悲しみからの妙な前向きのモチベーションは表面だっては批判したりはしないけれど、どうも違和感を感じさせるという絶妙な変化球で投げ込んでくるのです。
実在の事件の余韻を物語に取り上げてはいるけれど、 作家は誰かを批判している、という一段高いところの視点ではないように思います。犯人にも被害者にもその関係者にもいつでもなりうる、という視点からそれを提示しているにすぎないのだけれど、それは私の心を強く揺さぶるのです。
ザンヨウコ、圧倒的な安定感で初演に続き物語の中心に。次女を演じた吉岡亜沙美、アルバイトの女の子を演じた長岡初奈は、かわいらしさ、若い従業員を演じた吉村公佑は終始物静かな佇まいがかえって印象を強くします。蕎麦打ちの従業員を演じた竹内健史はテンションの落差が物語の緩急を作り出していて、見やすくしています。
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