速報→「怪物」ブラジル
2011.2.13 18:00
ブラジルの新作。少し長い上演時間だけれど、物語の起伏で飽きない130分。20日まで駅前劇場。
離婚した姉は妊娠しているが、お腹はやけに早く大きくなっている。その子供の父親になろうという男たちが押し寄せるが、断る。同じ家に住んでいる妹はストリートで演奏している、その彼は薬が手放せず働いていない。
母親の意志で中絶できるかという時期の少し前、果たして女はその家で出産するが、産まれてきたのはまさに「怪物」だった。
母親と子供、母親と父親を軸にしたさまざまなものがたりをきちんと描きます。エログロナンセンスをキャッチフレーズにしていた頃とは打って変わって、苦笑系ともちょっとちがう、むしろ、若い母親から若くない母親だったひとたちすべてにリーチするようないい話。微妙に不思議が混じり家族とか親子を丁寧に描く今作は、映画というフォーマットにもマッチしそうに思うのです。
父親はわかっているとはいいながら、物語の中ではそれは明確には示されません。冗談めかして言う宇宙人の、という無茶ぶり設定もこの座組ならばそれを納得させてしまう力があります。役者の力ということをさしおいても、産まれた子供がどうであれ全力で守る母親や出産までの不安で揺れ動く気持ちを描き込む作家の書く物語を楽しむのです。
たとえばある種のSFクライムムービーのような風合いがあって、産まれ出た子供を全力で守ろうという母親の話を、それを迫害しようという人物は医師以外にはでてこない、ごく小さなアパートの中でだけ描き出すのがエンゲキ的でもあるし、物語にわくわくするのです。出落ちのような「怪物の登場」の圧巻のおもしろさはあるのだけれど、そのあとのレンタカーの話、意図せず犯してしまった規範に対する母親の諭しと、二転三転する物語と、そこに織り込まれた母親の愛情と迷いがアタシのこころをつかんではなさず、130分という時間があっと言う間なのです。
辰巳智秋あってのこの芝居だけれど、そこに甘んじることなく、かわいらしさと無邪気ゆえの怖さとを丁寧に描き分ける確かな力が存分に。桑原裕子はあたしの知る限り初の母親役だけれど、強がって見せつつの内面の悩みという厚みを感じさせます。羽鳥名美子は美しくて息を呑む瞬間、堀川炎は前作につながるようなところもあるけれど、デザイナーという役に説得感があります。さまざま入れ替わり立ち替わり現れる男たちの中での中川智明の冷たく見えて友情に厚い元同僚、あきらかに怪しいタクシー運転手という本井博之どこかくたびれた中年風で説得力があります。
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