速報→「SWEETS」ehon
2011.1.23 14:00
葛木英の立ち上げた新ユニットehonの立ち上げ公演。23日まで座・高円寺1。110分。
20歳で引きこもっている男。母親が呼んだ医者が時折往診に来るが、母親とはあわずにいる。女兄弟は生まれつき耳の聞こえない彼とつきあっているが、家には寄りつかない。母親は若い中古車店社長と三回目の婚約をしているが、先の二人の失踪に疑問を抱くライターと名乗る男が鍵回っている。医者や、母親が頼んだ引きこもり解消の先生の努力の甲斐あって息子は家を出る決心をする。
広すぎる座高円寺の舞台を、絵本とリアルの境界のようにつくった舞台。リビングと息子の部屋と、玄関や外の部屋になる回転するステージの3カ所の構成。上には息子の部屋の外の廊下。現実の部屋の配置を意図的に無視している感じ。なるほど、それぞれのステージが突然目の前に現れるような「絵本」ぽさがいっぱい。
引きこもり、障害者のこと、母親の想いのベクトルの間違い加減など、ひとつひとつの題材は10年来、それどころかわりと手垢にまみれるぐらいに扱われてきた題材。が、それらの組み合わせ方の妙で、舞台の奥行きはぐっと広がるのです。
どこにでもある話ではないけれど、どこにでも起こりうる話。それを支えるのが個々のパーツのリアル。「花ぐらい飾らないと」という母親の言葉というごく小さなものから、コールセンターの手順とその理不尽な要求とそれに対応する最近の手順、あるいはわりときっちりとした手話など、少なくとも違和感を感じさせないというのはたいしたものだと思うのです。
理系男子としてはMSX2(というパソコンの規格があったのです、大昔)の生産完了から20年というのにも心奪われたりするけれど、いまでも中古や互換機がいくらでも手に入るファミコンではなくて、それなりに売れたゲームプラットホームだけれど、物語の要となる「リセットできない」という故障を訴えられてもメーカーどころかだれも解決できないことの象徴として持たせるのはアタシには腑に落ちるのです。
佐藤みゆきは前半でわりとヒールを一身に背負い、上から目線という甘露を体現しながら語り部でもあり、観客のわたしから地続きを感じさせる要。地続きという意味では古山憲太郎の演じた婚約者の視点も。幸田尚子はクロムモリブデンではもっとエキセントリックな感じ(まあどの役でもそうだけれど、クロムは)なのだけれど、リアルに美人で、想いがきちんと見えるのがすてき。瀧川英次は出番は少ないけれど、怪しさ満点で楽しい。
気になるところが全くないわけではありません。 医者は息子が出て行くきっかけでおしまいなのか、拘泥するパソコンは交換するのではなぜだめだと彼が考えているのかとか、あるいは象徴的に扱われる「蟻が見える」とか、思わせぶりでかつ魅力的なアイテムがそのまま、ということがいくつか。
が、それを上回るぐらいにきちんと作り込まれた物語はたいしたもので、見応えのある、芝居らしい感じは、たとえば大きくなりはじめのときの大人計画やナイロンを見るようで、これからが楽しみなのです。
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