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2011.01.09

速報→「冬に舞う蚊」JACROW

2011.1.8 20:00

JACROWの新作は、前回の企画公演(未見)から敷衍したという110分。10日までサンモールスタジオ

設計から営業に異動した男。会社を支える営業1課は公共工事を担当している。そこに残る談合の芽を、彼は我慢がならない。正義を振りかざしたその男を待つのは。

今の日本の断面を描くのが得意な作家。でも会社員の現場という芝居はあまりない気がします。会社員のアタシ、会社がそういうことをやっているというわけではなくても、多かれ少なかれどんなオフィスにでもありそうな小さなことも含めて何かおおっぴらにいえないこと、ってのはある、というのを共有する感じは腑に落ちます。前回の企画公演ではひたすら「いじめる」という構図の30分だったようなのですが、さすがにそのままで時間を延ばすのは無理だったと見えて、会社という現場を舞台にしたことが功を奏しているように思います。

ネタバレかも

談合の現場をある意味青臭い正義を振りかざしている若者。会社と取引先の命運を握った彼は刀を振りおろしてしまうがその影響に想像力が及ばない。もちろん彼は正しいことをしたのだけれど、その正義すらも妻の実家という事情で翻ってしまう人間の弱さを重ねて描く厚みがあるのです。

呼び出されて語った男、その回想は彼自身が見聞きしたことと、同じ時間のもう一つのシーンが並行して進みます。ここに至って物語の中で絶対的な正義だったはずの妻の立場すら、実家の一大事ゆえとはいえ、揺らぐに至って、彼を支えるものは何一つなく、それに妻自身が気づくシーンがあまりに悲しい。

派遣社員の訊く「何のために仕事をしているか」ということ、彼女自身は「生活のため」と言い切るけれど、訊かれた昇進したばかりの男は生活のため以外の何か、それはたとえば「その人を信じて付いていく」というある種の猿山の構図。アタシも会社員だしオトコだし、芝居を見るために生活費を稼いでいるとはうそぶきつつもその感覚はよくわかるのです。派遣社員という立場が巧く使われます。対するスタイル抜群の(どうしても目で追ってしまうのは内緒)社員の女性との対比が鮮やかです。

なぜ彼ら、特に男性三人はあそこまで苛立っているのかは今ひとつ腑に落ちるという感じではないのだけれど、最初に紹介されたときに付け加えるように大学名を口にするという彼自身のある種の空気読めなさ加減が、その出発点。 細かいリアルという点ではアラがないわけではありません。総務とは別に広報があるほどの規模の会社なのに法務なり弁護士がついていないのかとか、福岡に帰るのに費用も時間もかかる新幹線をなぜ選ぶのかとか、元社長がホームレスの風体でこのオフィスに忍び込めるほどセキュリティが何にもないのかここは、とか。 アラではありませんが、彼が死んだ場所はどこなのか、ということも明確には語られません。会社かもしれないし自宅かもしれない。幅広く解釈をのこすという選択肢としているのはこちらにボールを預けられた感じ。劇場へ下る階段の途中に設えられた現場の遺留品を帰るときに目にするとその印象はより深まるのです。

妻のラストの「ごめんなさい」はいい台詞。気づかずひどいことを云ってごめんなさいというふつうの解釈はもちろんあるけれど、アタシは勝手に「さらに裁判で金をせしめようと利用するのでごめんなさい」という裏読みを。まあ、これはあまりに穿った見方。

立浪伸一のまっすぐ、蒻崎今日子の真摯、大塚秀記の怒声のすごみと通風の説得力(他人事じゃない(泣))。工務店社長を演じた坂本晋はある種の厚みで印象に残ります。堀奈津美はよくもわるくも職場の花ということを体現していて、彼女がいるから殺伐が緩和されるという絶妙のバランス、彼女自身はパワハラと意識せずとも、それが結果として追いつめる説得力。

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