速報→「シックス・ストーリーズ( フェルマー版)」4LDK

2010.11.6 16:00

六つの物語、というタイトルなのに12本できてしまったとのことで6本ずつにパッケージした2バージョンを交互上演。アタシが観たのは「フェルマーの最終定理公式版」。(なんか言葉が変だけど)。今回のまつもと演劇祭の中では唯一の現代を舞台にした芝居です。短編だけあってコント風の仕上がりも。55分。7日まで信濃ギャラリー。

トイレもないような小さな蔵の中。客席を四方に作って、ぎゅっと近い空間。いわゆる「現代口語演劇」をやっているのは今回の5本のうちこれ一本。もちろんアングラもエンタメも楽しいけれど、そこに生きている人々の息づかいや気持ちというふわふわしたものを表現に昇華するというのがアタシが芝居に求めていることだったりするので、そういう意味ではいちばんしっくり。一本あたり10分弱で、物語をつくりあげるというよりは、どうしてもワンアイディアの着地点だったりアイディアの提示で終わってしまうので、こういう感じでの物語を見たい感じも。それにしても2バージョンというのは悔しい。いつか120分枠にして一挙上演してはくれないものか。(で、できれば平日遅めの夜公演を)。

ネタバレかも

1.お笑いコンビの控え室。簡単なツッコミが満足にできない相方に愛想を尽かすが、でももう一度のチャンスをと懇願するので..「原石」
お笑いやりたくて誘ったけれど、どうにも要領の悪い男と誘われたから始めたのにわりとうまくできる男の対比、一方的に攻められる一方かとおもっているか思うと、納得できない何かがあるだけで引っかかっていた、という納得感。

2.スーパーで出会った主婦、明日は小学校の運動会でそのお弁当に頭を悩ませている。子供から電話がかかってくるのはふつうの日常の光景だけれど「ママには内緒」
タイトルがすべてのネタバレになってしまう感があって惜しいというのはともかく、なるほどありそうな日常の風景。携帯電話があるからこその、こういうクロスオーバーな感じがコンパクトに凝縮されていて楽しい。スーパーの試食コーナーよろしくウィンナーをホットプレートで暖めて置いておくという、夕方の空腹には強烈な刺激が楽しい。

3.姉の家を訪れた妹が目にしたのは彼氏なのだと名乗る男で「おめでとう」
男っ気なんかまったくないまま30も半ばをすぎた姉の家に彼氏と名乗る男がいて、それがけっこうな若者(らしい)で。ありそうでなかなか芝居の風景としては観ることが少ない気がするシチュエーション。そこから姉を気遣う妹が男を問いつめるという流れも、そのあとの両者の反応も普通に感じられる感覚の安心感。なるほど、女性の観客が老若男女問わずガツンと受けを取るのもよくわかります。アタシが好きな感じ。

4.万引きした女子高生は黒いスプレーを盗んだのだった。不思議に思った警備員が話を聞いてみると「万引き」
女子高生、というのを出落ちな感じに見せてしまうのはちょっと惜しいけれど、それはほんとうに最初の少しだけ。万引きしたものが黒いスプレーだというのがちょっとびっくりのはずなのだけど、当日パンフに乗ってるあらすじでわかっちゃうのは惜しい。そこから警備員が話を聞いて、というのは日本の美しい風景として残すべきはこれじゃないかと思う流れ。終幕のパンキッシュさが楽しい。まあ、これはコントというよりはエンゲキに近い感じ。

5.結婚して5年目の夫婦、いつものように幸せな朝食となるはずが、妻の機嫌が悪い「あさ」
あまあま、でれでれの夫婦の会話、そこに少しの波風、妻は嫉妬してむくれるが夫は説明して納得させる、がという流れ。そこからもうひと落ち持ってくるのは巧くて、コントにもありそうな流れ。でも、でれでれダラダラな夫婦の朝食の風景というごちそうさまな風景の描写こそが楽しかったりするのです。

6. 友人の葬儀。久しぶりにあった男女、亡くなったのはカメラマンを目指していた男。彼ともずいぶんあってないけれど、彼がモチーフにしようとしていたのは「笑顔の終り」
当日パンフで元恋人というのを書いてしまうのはもったいない感じ。久しぶりにあった二人がどういう関係か探りながらだと、彼の写真を見た男が「女の子の写真」と「男の子の写真」の、作った笑顔が終わる切り替わりの表情から見える本心、というタイトルが生きると思うのです。これも二人芝居としてはよくあるシチュエーションなのだけど、過去のあのときの気持ち、というのを写真に焼き付けるというアイディアが素敵。