速報→「Project BUNGAKU 太宰治」Project BUNGAKU
2010.10.9 14:00 10日までワーサルシアター。本編20分×4本というふれこみですが、毎回設定されている20分弱のトークショー込みで135分。
脳病院に入れられてしまった男の日記「HUMAN LOST」(翻案・演出 広田淳一)。
愛する男の為に海水着を盗んだ女、病弱な妹、豊かではない家族、その話を書いた叔母の日記「燈籠」(翻案・演出 吉田小夏)
夫は行きつけの小料理屋の勘定を踏み倒したあげく、金を盗んでくる。家に追ってきた店主夫婦を押しとどめ、翌日その店に出向く「ヴィヨンの妻」(翻案・演出 松枝佳紀)
狂人となった男の手記と三葉の写真。人とまともに会話できない幼少、おどけて見せることで生き抜く術を見つける中学校、酒と女に浸るようになった高等学校、最後に求めたはずの無垢な女性との同居「人間失格」(翻案・谷賢一)
偉そうに云うことではないけれど、ちゃんと太宰を読んでいないアタシです。いずれも青空文庫で読めるので、後から読むのも楽しい。あらかじめ知っていればあるいは背景の知識があれば、感想は異なってくる気がします。そういう意味で、アタシの観た9日昼の回のゲスト(松本侑子,wikipedia)、背景をすべてのみこんで短い時間で総括し、元アナウンサーの経歴らしく聞きやすい声で話してくれるのは貴重。わりと一気に話されてしまって、トークショーというよりは講演という体裁だったのはどうだろう、とは思いつつ、結果としてアタシには役に立ちました。
既に知っている役者はともかく、どの役がどの役者なのだろうということが当日パンフから読み取れないのは少々残念。(別のパンフがあったのかしら)
「HUMAN〜」は、もともとの文章がそもそも物語と云うよりは日記とか散文という感じになっているのだそうで、その点描される言葉の羅列から語られる何かが見えるのがステロタイプな太宰像か。四人の女優が入れ替わり立ち替わりでリズミカルに動くさまの見た目の楽しさと物語自体のもつ鬱屈した感じを融合させるのに苦労している印象があります。閉ざされること、そこから解放されること、金魚を袋から金魚鉢に放したところが、その解放なのだろうけれど、その先が所詮金魚鉢、というのは舞台上の制約かもしれないけれど、自由に見せた先のすぐ外側にまた壁がある、というのは暗喩のよう。
「燈籠」は普段の青☆組よりは花吹雪が舞ったり、伝統芸能っぽくみせたりと和装や様式によった演出。和服の所作が少々なじんでいない感はありますが、こういうコンペ形式の場合に強い戦略で、結果として巧く機能しています。 トークショーによれば、他の作品から女性のモノローグを引いて構成しているよう。 一人の女性の視点というよりは、待ち続ける女、一目惚れしてしまう女、短い命で自分で自分への恋文を書く女と、複数の女性の切ない視点が強く、女性の演出なのだということが全体に強く感じられます。日記を盗み読み作品にしてしまう男の酷さを描き、それを断固として許さない女を 演じた木下祐子が凜としてカッコよく、去った男を名残惜しく思う一抹の寂しさもきっちり。男に入れあげた挙げ句の万引きをする一途さ熱さという役は珍しい感もある福寿奈央は台詞の強度もあって強い印象。病弱な妹を演じた井上みなみは、実年齢に近い役どころ、さすがに強い。
「ヴィヨン〜」は、物語自体の強度があって、ストレートに読みやすい物語をそのままコンパクトに舞台とした印象。少々グロテスクな赤ん坊の人形を使っている以外には奇をてらわなかったのも見やすさにつながります。 小料理屋で働いて一夜で看板娘となる妻の美貌を体現する伊藤えみ(検索してびっくりのグラビアアイドル、とか。wikipedia)という役者に説得力があって、キャスティングの勝利という感じはあります。「人間〜」も物語自体の強みに加えて、舞台端で物語の外郭を形作る「第三者の読み手」が、今作の演出家自身を彷彿とさせる体裁。さらにその二人が重なるような入れ替わるような終幕が巧い。酒とタバコと女もてて、なんてことが現実の人間として成立していそうな(偏見かもしれないけれど)演出家自身じたいも芝居に取り込んでいるというのは禁じ手という気もしますが、アタシにとっては結果として四本の中でもっとも好きな一本になっています。
主役を演じるコロ、子供のころの自閉する感じから、「笑わせる」という仮面で生き抜き、学生になってからの酒と女の自堕落への流れ、ポップさとスピード感があって、現代風の人間失格の体裁なのも、見やすさの一つ。もてまくる段での、女優たちの半裸の眼福に条件反射のように喜んでしまうオヤジのあたしだけれど、それ抜きにしたってもてまくる、という未知な、でもどこかにあるだろう世界がめくるめいて楽しい。少々ステロタイプとは思いつつも、料理しに押し掛けたり、ヒモだったり、商売女だったりとそれぞれの女性の(ある種の理想系的な)アイコンは女優のショーケースのよう。
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