速報→「やわらかいヒビ」カムヰヤッセン
2010.10.11 15:00
カムヰヤッセンの新作。100分。11日まで三鷹市芸術文化センター星のホール。
平成が歴史の授業で教えられるようになった時代。国内最大の原子力発電所の事故をきっかけに、最高峰の研究をおこなうために設立された「アカデミー」。人文・社会・自然科学の分野に5000人の研究者をそろえるが、運営は秘密のベールに包まれていて、次の法改正ではほぼすべての運営が政府の判断を仰がずにできるようになる見込み。そのアカデミーに招かれた反重力の研究者、数学オリンピックで優勝した高校生は。
少しだけ遠い未来の話。政治ではなくアカデミーなる、研究によって立国するというビジョンにたつことを決めた、という今を生きるあたしにはにわかには信じられない国の行く末だけれど、それは設定なので大きな問題ではありません。
アカデミーの暗部とか、教育評論家の家庭のこと、あるいは研究者同士のレベルの低い確執、子供ができない夫婦、夫と妻の収入の格差、教室のこと。ずっと未来に至っても、この国も人々もなにも解決できていないのだ、という解釈をしてしまうあたしは若い作家が描くこの絶望的な物語に打ちひしがれるのです。
あたしの友人が終演後に話していたのは、「(空間に)余分な一人をおいておきたいのだな」ということ。なるほど、物語の本筋には関係ないままに、居る人、というのがそこかしこに。その余白のようなものは作家の語り口というか味の一つなのだなと思うのです。
物語をドライブしているのは基本的には歴史の教師を演じた板倉チヒロ。二つの別個の物語と想いをたった一人で背負う特異点のような存在。もちろん役者としても想いが爆発する気持ちの発露が美しく切ないのだけれど、それをきっちりと。その妻を演じる奥田ワレタとの関西のことばでのやわらかな会話、何気ないのだけれど実に豊かなことばなのだとおもうのです。
理不尽なテンションで演じることを強いられるという点で役者に負担がかかりそうなのは、研究者のひとりの甘粕阿紗子や密売人の森田祐史。じっさいのところ場面は少ないものの、安心感。研究室のなかでベレー帽をかぶる「画家」を演じた笠井里美の異物感だったり、ちょこまかした感じは、全体に低いテンションで語られるものがたりの中ではあたしの気持ちの持続にとって重要で助けられたなと思うのです。
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