速報→「九月の遠い海」菅間馬鈴薯堂
2010.10.2 15:00
菅間馬鈴薯堂(すがまぽてとどう)、作家の三十年前の作品を改訂上演だといいます。115分。6日まで王子小劇場。
戦後すぐ。隅田川沿いに住む子供が通っている小学校で女子生徒のブラウスが無くなった「事件」の犯人にされ、そのせいでお天道様が怒ったから雨が降り続き遠足も延期になってしまったといじめられる。大雨が降り続き、川沿いに住む児童たちに避難を呼びかけようとした女教師がは水のみこまれ行方不明になる。そんなこんなで中止になった江ノ島への遠足。中年になったあのころの同級生たちは、江ノ島へボートで行こうと、たくらむ。
1950年代の小学校やその近所での風景。そのころだって貧富は確実にあって、しかもそれは一つの小学校の中に共存していて、いまよりもずっとあからさまに子供たちの関係にも影響しています。貧しさが先なのか、住む場所や職業での差別がいまよりもずっとあからさまな時代のことなのかはわからないけれど、そこには確実にそれがあった時代を包み隠さず。
作家自身が当日パンフで語っているとおり、いまさら「古めかしい」芝居ということもできましょう。当日パンフにあるとおりに、金杉忠男や中村座といったものの強い影響を受けた時代、小学生と原っぱという取り合わせについてあまりにノスタルジーが勝ってはいないかという感じがしないでもありません。それにしたって人々の熱量が高い時代の空気は確実にあって、その熱量を存分に浴びた物語を若い役者が上演することの強い意味も感じるのです。
今回は日程の関係でもしかしたらみなかったかもしれないアタシなのだけれど、口の悪い友人のいう「若い作家たちが束になっても勝ててない」というのは、ある一面では正しくて、その評判に押されるようにして観て心底よかったなぁと想わせるちから、があるのです。
ノスタルジーと過去の作品の力というだけではありません。作家は次の世代に自分の得てきたものを伝えていこうという姿勢が見えます。台本がネットで無償公開されているほか、当日のパンフも、背景となる小学校のころの「事件」を時系列に記し、さらに物語の各場のタイトルと、それがどの時代を描いているものなのか、ということを記載していてとても参考になります。こういうことは興ざめ、という声もありましょうが、芝居ってものの成り立ちのようなものが見やすくて、アタシとしては断固支持したいのです。
黒岩三佳は怒鳴るような発声が強いられる今作においては少々声に不安が残りますが、凛として強い教師をきっちり。舘智子は朴訥としたような「大姉」での迫力や、いわゆる「いじめっ子」のリーダーでの迫力もしっかり。好宮温太郎・市橋朝子の紙芝居屋はキャッチーで印象に残ります。タテヨコ企画勢が大勢出演していることは、いつもの菅間馬鈴薯堂の雰囲気とはまた違う実力ある役者陣が揃ったことで新しい一面を観た気がするのです。
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