速報→「甘え」劇団、本谷有希子
2010.5.15 19:00
本谷節全開の110分。めんどくさい自意識がめいっぱい盛られて本谷好きならばぜひ。6月6日まで青山円形劇場。
母親が家をでたきり戻ってこない、父親と娘の二人で暮らす家。父親は母が出ていったのはその娘が生まれてしまったからだといい、あらゆることの原因が娘にあるとあたるが、娘はひたすらそれに耐え、いい歳になっても家から出ることもなく、様々な本を読みふける。男からのセックスを拒むことが出来ない幼なじみに本で読んだ「夜這いは日本の伝統文化なのだ」といってなぐさめたりする。娘の横で寝る父親はその寂しさゆえに毎夜すすり泣くが、好意を持つ女が現れ、家に出入りするようになる。ある日、ある日自分を輪姦した男を幼なじみ自身が連れてくるが、勘違いした男は、その夜娘と父親が寝ているところに夜這いに現れる。
たった5人の濃密な物語。今の不幸はすべて娘のせいだと言うのに見捨てて出ていくことを許さない父親と逃げ出すこともせずに恨みをため込んでいる娘。本を読んでばかりで「頭のいい」娘は自分を責めるばかりの長い時間をすごしてきている。父親に対するねじれた愛情の現れなのだけど、理不尽な暴力を受けてもなぜかそこから去れないというDVの温床のような関係というのがそれほど突飛なモノではない、という説得力をもって迫ってくる感じがするのです。
あるいは硬派な男に惚れがちな面倒な女、サセ子な女、鬼畜な男など、それぞれはあまりに不器用。 全体にどうしようもない閉塞した感じなのに、それぞれはじつに一生懸命に生きている人々に注ぐ作家の視線は決して優しいという感じではないけれど、切り捨てるではなく、きちんと向き合い、人物を描き出しているのです。
ネタバレかも
勘違いして夜這いに訪れた男、軽い感じで帰ろうとする男を呼び止め追いすがり帰らないで、というあたりから翌朝、そこに父親殺しを見られた、父親と関係していたと誤解されたということから翌朝にかけての中盤が実にエキサイティング。友達が惚れている相手なのだとわかっていても、再三再四帰るといっている男をそれでも引き留める、というどうにも理屈では説明できない感覚。父親のすすり泣きと寝たくない、ということは一応の説明にはなっているけれど、ほんとうの心底は誰でもいい誰かに気持ちを埋めてほしい気持ち。
父親と分かれようと一度は思ったのに思い直してやってくる再婚する女、誘われると断れない女、それはつまり弱くてダメだとわかっていてもそこにはまりこんでしまう一種の悲劇で、そんな女たちを執拗なまでに強くデフォルメして描き出します。
それまでは男の誘いを断ったことのない女が断り新しい人生を迎え、それまではどうにも堅い生き方をしていた女が、幼なじみに頼んで夜這いしてもらおう、という生き方のの転換点。それは罪悪感にさいなまれて生きてきた人生を転換する、ということだけれど、ふつうに考えればインモラルにすぎるこの結末を、腑に落ちてしまう、と感じるのは、アタシのどこかにあるモラルに縛られている気持ちなのか、それともインモラルをもっと望むきもちのせいなのか。それはどうでもいいカミングアウト、なわけですが。
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コメント
どうせならもっと重大なカミングアウトが欲しいわけですが、要するに観た方がいい。絶対に。というお勧めなわけですね?
投稿: みさ | 2010.05.17 22:15