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2010.05.30

速報→「幸せを踏みにじる幸せ」ジェットラグP

2010.5.29 19:30

谷賢一の新作はジェットラグのプロデュース公演。110分。31日までタイニイ・アリス。

まるで山歩きの団体のように楽しげな人々。実は自殺したい人々が富士の樹海にいって、最後のひととき過ごしている。いざ決行の段になって、男が騒ぐ。自殺防止団体で働いている彼はこの団体に混じってきて、止めようと試みる。
が、それは失敗に終わり自殺志願者たちは彼も自殺と見せかけて全員が自殺できるように遺書を書かせようとする。監禁して、交代で制裁を加えつつ、遺書を書くように勧める。

自殺に向かって一丸となっていたはずのパーティーの中の裏切り者。そのひとりの監禁と暴力を繰り返していくうちにそれが日常になっていき「生き続けて」しまう人々。やがてそれも行き詰まり、また破滅の方向へ向かうのは、ちょっと作家の陰が見え隠れ。

少々無茶、とはいいながらも、一歩間違うとリアクション芸人の体を張った芸になりかねない中盤をぎりぎりのところで踏み答えます。良くも悪くも、玉置玲央をメインに据えた物語で、役者に高い負荷をかけながらも舞台の中央に出ずっぱり。大昔、東京オレンジが堺雅人を舞台の真ん中に置いたままほとんど動かさないというのをやったことがありますが、それをちょっと思い出します。

反面、これだけの芸達者をそろえて、こういう要素でしか使わないのか、というのは贅沢といえばそうだけど、少々もったいないというか物足りないというのは、ジェットラグというプロデュースでは何度か感じた感想。

我妻三輪子は初見ですが希望の要として百花亜希とともに魅力。小松美睦瑠は飛び道具というか男運の悪い女王キャラというのはどうなんだと思いつつ安心してみてしまいます。永山智啓は出落ちなキャラクタはともかく、終盤のちょっと怖い感じも魅力的。

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速報→「しゃぼんのころ」マームとジプシー

2010.5.29 14:00

アタシは初見です。女子中学生たちの切実な日々の会話はアタシのど真ん中に。100分。31日までSTスポット。

女子中学生。よく三人でつるんでいる。ある日同級生の女子二人が学校をさぼって、学校が見える丘で野宿を始めると聞いた一人は、ちょっとそれまでの友達となじめない感じもあって、その野宿に参加することにする。そこには一ヶ月前から飼っている猫がいる。

友達と一緒にいること、それをうざったいと思うこと、好きな人ができること、少々の不安定さと距離間を測ったり測りかねたりする日々のあの感じ。「女子」にはまた別の物差しがあるだろうし、男子なアタシの感覚とはたぶんちょっと違うのだろうけど。あのころは自分の軸では筋が通っていた行動でも、ほかから見れば唐突で不安定で突飛な行動をする中学生の、その「理由」の視点を丁寧に積み重ねていき、やがてその「理屈」が自分のなかにしっかりと積み重なっていくのです。

ちょっと浮いてる風の風紀委員も、体が硬いのにクラシックバレエをやめない子も、早々粗暴な彼氏も、木訥で家の手伝いに追われて学校にこられない同級生の男の子も、家出している二人組、みんな懸命で、全力で生きているそれぞれの理屈も視点もこのわずか100分の中で丁寧に描き出す感じ。

快快が時折描く、「世間の風景の中で独りなんだという寂しさ感」というか、そういう感覚はなるほど中学生の視点もできっちり描けるのだなあと思うのです。自立したいと思ったり、人との距離が「見えてくる」この年代だからこそみえるダイナミックさを持っていて印象に残るのです。短いスパンでリフレインされるシーンは違和感こそありませんが、ストレートにみたい感じも。もっとも、このシーンのつなぎ方が舞台全体のリズムやダイナミックさ、頭で思い浮かべていることという感じを表現しているようなきもしますので、もしかしたら大切な要素なのかもしれません。

役者たちの実年齢がいくつかは知りませんが、中学生っぽさのようなものは満点に近く、それはことさらにデフォルメするのではなく、かといって大人が演じている感じとも違う、リアルな雰囲気をしっかりと持っています。 役者はみな中学生の揺れ動くニュートラルを好演してかわいらしい。ことに、ふうこを演じた召田実子は台風のようにパワフルで楽しい。たえを演じた斎藤章子は風紀委員っぽい空回り具合が楽しく印象に残ります。

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2010.05.29

速報→「バイバイブラックバード」キャラメルボックス

2010.5.28 19:00

キャラメルボックス25周年の第二弾は新作。記憶と時間に関する得意技できっちり決める125分。6月6日までサンシャイン劇場、そのあと神戸。わりと席はあるようで、当日半額割引やtwitterを使ったさまざまな割引があります。

元は小学校だった建物を使った「東京再教育学校」(TSR)。さまざまの時点に、さまざまの時点からの記憶をなくした人々が、自分の中に残っている最終記憶の時点に再入学して、教育を受けるという支援施設。見学に訪れた女性は27歳だが16歳からの記憶を失っている。高校1年クラスは洋食屋で妻子が居るが記憶をなくして小説家を目指したい40代、頼る人がおらず一人で前と変わらずに働いている30代、都議の息子と最年少の女性20代の4人が居る。 そのクラスで発表会のテーマを決めるHRに参加することになって。

キャラメルが得意な時間軸と想いのシャッフル。難病を軸として、記憶がスキップして年をとっているのに記憶も気持ちも若かくなっている人々。周囲の家族の想いのすれ違いと、高校生特有の自立したいと思う気持ちをきっちり作り込むのです。

さまざまな年齢なのに記憶で一つの時間軸にそろえるというのはSF的なのに見たことのない新鮮さがあります。なるほど教師だった作家らしい視点。

シンプルな舞台、それを役者たちが組み替え、動かしていくという手法は「スキップ」に近い感じ。物語の雰囲気もそれに近いのだけれど、たったひとりと家族の物語から、社会生活の中でさまざまな事情を抱えている人々の物語に敷衍することでいろんな年代にフックするようになっています。半面、スキップのその一人にど真ん中だったアタシにとっては少しばかり薄まった感じに感じられるのはこちらの事情。

もうひとつ正直に言えばわりと早い段階で終幕のシーンが思い浮かんでしまう感じではあります。でも高校生が思い描く将来の恋人との姿が重なる感じで気持ちにタッチします。

實川喜美子は揺れ動き早く自立したい年代らしく好演。岡田さつきの力強く生きる感じがしっかり、坂口理恵の軽口のテンションが緩急で安心なのです。

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速報→「アンゲーテッドコミュニティ」北京蝶々

2010.5.28 14:30

今の時代を切り取る北京蝶々の新作は安全にまつわる人々の物語を90分。30日までテアトルBON BON。販売されている上演台本はスピンアウト短編(1ページちょいですが)が2編つき。

十年以上前に居なくなった子供。その町の子供は皆防犯グッズをもち、外で遊ぶと青少年指導員に叱られたり、住民たちが防犯サークルを作って独自に活動していたりしている。警備会社が塀に守られたゲイティッドコミュニティを建設・分譲し周囲の住民はあこがれてはいるものの、高価格ゆえにとても入れない。再び子供たちの行方がわからなくなる事件が続発する。

消えていく子供たちということは治安が悪いので囲って外に出さないというのはヒステリックにすぎると感じてしまうのは子供の居ないアタシの最初の印象だけれど、当然のことながら、それは正しくありません。それぞれの人の思いも理由もきちんと積み重ねていて、納得できる感じ。

個人や市民のネットワークが安全を守るのは自治が機能するということで、たとえばアタシの住む長野だと(住んでいる領域の広さのわりに救急車も消防車も警察もまばらになるざるを得ないから)普通に機能している社会の姿として納得できますが、反面それが互いを監視するという側面もきっちり描き出していて、それが行き過ぎた姿が見えるのは確かな作家の視点。

上下二段に分けた舞台。ほぼ一色、スライドさせるだけで扉の形を変えてスピーディーに場転させるアイディアは秀逸で印象に残ります。

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2010.05.28

加減が難しい

首都圏に居るときは、芝居を観るのは日常に組み込むことは意志と環境が許せばそれほど難しいことではありませんでした。仕事の立て込んでいないときを狙って当日券で見に行ったり、やることのない休日にふらりと見に行ったり。

でも距離が離れてみると、週末に集中するざるをえないのはもちろん、それなりに計画を立てないとまわりません。平日に見られないわけで、どうしようもないコマ不足の時に休日を当てる、なんてことをしようとするとやはり計画を立てないとどうしようもないのです。 まさかね、アタシが一ヶ月先の芝居の予定を(手許で仮のものとはいえ)立てるようになるとは。電車に乗り込んだ瞬間に当日券で行く芝居を探していたあのフットワークの軽さはちょっと懐かしかったりします。

で、そんな休日をあてた週末。

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2010.05.25

速報→「露出狂」柿喰う客

2010.5.22 19:00

女子サッカーを題材に、部活動のあれこれ、100分。毎回トークショーが設定されています。31日まで王子小劇場、キャストをシャッフルする「乱痴気」ステージも2回(おのおの違う配役らしい)設定されています。そのあと大阪。

高校の女子サッカー部、新入生は圧倒的な力を持っているが、レギュラーになれない。我慢ならなくて先輩に試合を申し込む。人数で4対11というハンデにもかかわらず圧勝してしまう一年生を残して先輩たちはみな退部してしまう。一年生のマネージャを加え5人は、絆を深め、4人のままでも練習試合で周囲を圧倒していく。翌年、翌々年、下級生が入って来て盤石のチームに思えたが。

トークショー(毎公演後に設定)によれば、もともと女子サッカー出身のコロをメインに据えた女優ばかりの企画という出発点。サル山のように舞台中央にそびえる塔に乗り、出番でない役も含め全員がおそらく出突っ張りでそのサル山に居続けるテンション。実力と学年の上下関係という微妙なバランスオブパワーに、その年代ごとの評価軸の変化というノイズを加えながら、たった数年間のこのクラブの趨勢を描いていきます。

これもトークショーよれば、作家は今作に描かれたような「最強のセンパイを持った後輩の苦悩がわからない。高校演劇をやっていたころ、自分が最強だったから」といいます。言葉だけ取り出すと不遜とも云えるこの言葉にカチンとくる筈のアタシなのだけど、数年間見続けていると、それが本当に嘘偽りのない自身の気持ちなのだろうな、ということもよくわかって不思議と受け入れてしまうのです。

アタシは自分が最強だったとは思わないしそもそも文化系だったけれど、高校の時のアタシを真ん中にした前後一年の部活の盛り上がりはわりと最高潮で、そのあとの世代とのギャップ、という感覚はよくわかります。学校の部活動は人の入れ替わりも激しいから一年の世代の差でがらりと変わってしまうというダイナミックなところがあって、その感覚はよく描かれています。

なるほど、「最強の一期生」のパートの前半部分の圧倒的なスピードのあるエンタメ感は言葉も芝居も気持ちよくて、面白いのです。まとめ役としてのリーダ−だったり、このグループが大切だと思っていたり、冷静だったり、突っ走るポジションだったりとそれぞれにきちんとキャラクタが描き込まれていて、高校のクラブという場所の雰囲気を巧く描き出しています。

それに比べると「波乱の二期生」「驚愕の三期生」が揃い、「全体の絆」ということを云うアタリからの後半は物語としても大盛り上がりの後の「管理され」たり「しらけた」り「自由という名の放任」だったりする嵐の後の凪を描くようで、キャラクタも一期生たちに比べると少々大味で少々苦戦している感じは受けます。

とはいえ、14人の女優たちが決してアクションというわけではなく、テンションの語りで見せる芝居の面白さにやはりアタシはやられてしまうのです。薄っぺらい、と云う向きもありましょうが、あたしはそのエンタメな感じが大好きなのです。

三世代のマネージャ、岡田あがさの奇っ怪な爺風キャラ、山脇唯の二世代っぽさと切れ気味キャラ、七味まゆみはどういっていいのか、もはやモンスターの領域の凄みのようなものすらあるそれぞれに楽しめます。コロは女子サッカーとの圧倒的な相性が見ていて気持ちいい。深谷由梨香の少々病的な感じは得意な路線、新良エツ子はグラマラスなクールビューティという感じでしばらくぼおっとしてしまうアタシなのです。

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速報→「めぐるめく」KAKUTA

2010.5.23 14:00

KAKUTAの二年半ぶり新作。30日までシアタートラム。120分。

交通事故で夫を失い、息子を残したまま11年間眠り続けた四人姉妹の長女。次女は作家で忙しい日々、三女は粗暴なダメ男にひっかかり、四女は雀荘バイトの日々で酒が手放せない。残された息子は高校生になり、四女の家に同居している。姉妹たちは長い時間なかで見舞いにも訪れなくなっている。
ある日、眠り続けていた長女が目覚める。リハビリのあと、妹たちを訪ね回り、夫の墓参りに誘う。四人姉妹、息子、なくなった夫の弟、献身的な介護師たちとの道中が始まる。

少なくとも最近のKAKUTAでは珍しい(もしかしたら初めてかもしれない)、薄い青色の抽象的な舞台。劇場のタッパの高さをしっかりと埋め、病室、狭いアパートらしい部屋、列車、風呂場、街の中とカットを割り付けていくかのようにスムーズなシーンの運びはリズムがあって、家族というわかりやすい物語とあわせて老若男女問わずに楽しめる仕上がり。

SFファンタジーのような味付けの枠組み。没交渉でぎこちないというよりは仲違いに近い姉妹たち。奇跡のような長女の目覚めは、否応なく彼女たちを再会させます。長女の失われた11年、息子との関係の回復というもっとも核になりそうでしかもドラマチックな部分を描き出すよりも、長女「以外」の人々の関係の変化という地味な部分を後半かけて丁寧に描き出そうとしているのだと思います。

作演を兼ねる桑原裕子の荒れキャラはあまりに得意技ではあるけれど楽しい。若狭勝也の旅人の物語の造型は少々無茶な感じもするけれど、介護士演じる辰巳智秋との掛け合いが楽しい。 今奈良孝行の落ち着いた人物の描き方はアタシには珍しい感じだけれどしっかり。

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速報→「ザ・パワー・オブ・イエス」燐光群

2010.5.22 14:00

イギリスの劇作家、デビットヘアーの原作による、現実を切り取ったシリーズの燐光群三作め。金融崩壊のプロセスを題材にぎゅっと濃密120分。23日までスズナリ。そのあと大阪、名古屋。

ナショナルシアターから依頼を受けて取材を始めた作家。イギリスにおける金融崩壊に至る過程を聞き取り始める

日経やらワールドビジネスサテライトではアタシには耳なじみの、しかしそれはポイントの報道としてであって、一連のつながりとして理解している訳ではない出来事を短くまとめたドキュメンタリを人への聞き取りを通して描いていて楽しめます。語り口は軽快でコミカルなところもあって、おそらくはよく知られた有名人を揶揄する感じの楽しさもあって楽しめるのです。

融資のリスクを数式化し、個人のノウハウではなく誰でも参加できる形になり、債権が証券化されてリスクが切り売りできるようになったかわりに見えにくくなったことが歯止めを弱め、潜在していたリスクが吹き出す過程は劇画のように痛快でエンタテインメントとして楽しめます。

じっさいのところこれで全部理解できる、という教科書ではありません。なぜそこでおかしいと思わなかったのだろうと思わなかったのだろう、銀行はなぜ自分たちが過ちを犯したとおもわないのだろうという作家のシンプルな問いかけ。は繰り返し語られるのだけれど、ついに明確な答えは得られません。 終盤に至り、高額な報酬を得ている金融で働く人々は、リスクをとってそれを手にしているのではなく、リスクを巧妙に他人、それも弱者に追わせてプロフィットだけを得ている、という作家の視線はやはりシンプルで揺るがず、しっかりとアタシの心に残るのです。 作家を演じたJohn Oglevee、解説役となる助手を演じた安仁屋美峰はもちろんしっかりと骨幹を。藤井びん演じる銀行家、記者の木訥とした語り口に説得力、 気弱に時折でてくるグリーンスパンを演じた鴨川てんしがコミカルで絶妙。終盤に記者として現れる松岡洋子(燐光群所属になったらしい)はコミカルも持ち合わせエンタメとして楽しい。川中健次郎、猪熊恒和、大西孝洋といった面々もきっちり支えています。

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2010.05.20

クルマと酒と

こういう場所で暮らすためには、基本的にはクルマを持っていて生活にも通勤にも使うのがスタンダードなのです。いざというときには運転するとしても、日常的に使うということには臆病なアタシです。大学生の頃には通学に使ったりはしていたけれど、寝不足とか体調不良でいつでもこれが凶器になるということを自覚できていたかというと、それは怪しかったのです。

年月は経って、クルマを運転しなくなって、お酒が好きになりました。いまのところはまだ、どちらを優先するかと聞かれれれば、酒、です。自転車も買いましたけど、酒呑んで乗るのは危ないよなぁ。ほんとに。

久しぶりの金曜移動。

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2010.05.17

速報→「北と東の狭間(外伝)」JACROW

2010.5.16 17;30

本編に対しての外伝は、役ひとつひとつを取り出しての一人芝居のアソート。本編にない外挿だったり、本編の場面を切り取ってみせたりの60分。

ママの夫はこの店の開店前日の愛情あふれる手紙を書いているシーン。本編のずっと過去のかたちを見せる深み。

対するママのシーンは、借金を抱えた夫の借金を生命保険とカリウムの殺人で解決しようとするシーン。ほぼ全編中国語という高いハードルだけれど、夫の書いた昔の手紙が「愛してる」を韓国語でまちがって「サランヘヨ」となっているところをうまく生かして、その手紙を金庫に大事にしまっている彼女と、それを捨てて決心するシーンを効果的に見せます。

店員の男は思いを寄せているホステスの心情吐露を中心としたあまりに切ない片思い。その片思いを遂げるためになんとか金を手に入れたいと思ってギャンブルにのめりこむという人物の背景を描き込みます。

ヤクザの男は刺された後のカウンターの中のシーン。刺されているという切迫したシーンで実家に電話をするという抜けた感じのコミカルが楽しく、外伝らしいつくり。レンタルビデオのタイトルにのかみ合わない会話も楽しい。

刑事はプライベートで店を訪れナンバーワンのホステスを指名し捜査をちらつかせながら無理矢理関係を迫るシーン。単に刑事の欲望というだけではなくて、不釣り合いにかわいらしい傘についての言及を取り上げて、本編ではうやむやになった中国人女性の殺人事件の犯人だと匂わせるのはスピンアウトドラマのようで楽しい。

二番手のホステス、婚約しているのに入れあげる男、その婚約者の三人は、本編の中でホステスが「子供ができたらしい」と告げてからの痴話喧嘩というか混乱のシーンをすこしずつ時間をずらしながら。

ナンバーワンホステス、その偽装結婚の相手の二人は、本編ではなぜか無言劇ととして描かれていた、カリウムを飲ませることを女が断念するシーンを一人づつのシーンとして台詞をつけた形で。

社長のシーンは、鎮火した現場で死んでいる愛人にかけより生前のシーンを思い出すというシーン。この一本だけは一人芝居ではなく、その愛人を登場させています。

本編の外側に別の深さや一面を描くという外伝らしい何本かがある反面、本編にあったシーンを一人芝居として描き直すということを繰り返すなど、外伝をつくらんがため、という苦労が見え隠れするのは少々残念。とくにナンバーワンホステスと偽装相手のシーンはこれをやるために本編を台詞が聞こえないという演出にしたのではないかという風に見えてしまう感じがしてしまうのです。 それでも、物語の外側にさらに背景を重ねようと言う試みの面白さ。まあアタシ個人としちゃコマがつぶされてしまうのは少々痛し痒しというところであるのですが。

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速報→「北と東の狭間」JACROW

2010.5.16 15:00

本編90分。16日までサンモールスタジオ。

中国人女性たちの働くクラブ。ダメになった人間、ヤクザや食い物にする人々などが集う。婚約破棄をし借金を抱えた男が連れられてくる。とある会社の社長が囲う愛人が送還されないように、借金を棒引きにする代わりに偽装結婚をすることになる。

中国人のおそらくは不法入国者の女たち、そのまわりの男たち。偽装結婚というかたちから始まる純粋な愛もあれば、働かない夫にむしりとられるような暮らしをしていたり、あるいは婚約しているのに店の女にのめり込んでしまう男がいたり、あるいはギャンブルの底なし沼にはまってしまう男たち。いわゆる裏社会の弱者・強者たちの関係はパワーゲームにはならず、その関係が入れ替わることがないのに人々の悲しさ。

何かのドラマの流れや構造で見せるというよりは、ある断面を切り取って提示した世界の中にシンプルな愛情の物語を埋め込んで見せます。不自由ない生活の金よりも、一口の餃子を喜んで食べてくれる男に気持ちが振れていくシンプルな愛情の物語。 随所に入る中国語はもちろんアタシにはなにを言っているか、わかりませんが、語調や表情だけでもきちんと伝えられるというのはたぶん洋の東西を問わない想いのものがたりだからなのです。 この手の店にはとことん縁遠いアタシですが、廊下の様子を壁を切り取って見せるのはちょっと巧い感じ。反面特に前半部分で短い間隔で暗転が続き、ぶつ切れの印象が残ります。

清水奈保を情が深い、という使い方にするのは珍しい感じだけれども雰囲気によくあっています。その彼女に愛情を注ぐ男を演じた橋本恵一郎の誠実っぽさ、根津茂尚の社長役というのは滅多にない感じだけれど、よくあっています。

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速報→「甘え」劇団、本谷有希子

2010.5.15 19:00

本谷節全開の110分。めんどくさい自意識がめいっぱい盛られて本谷好きならばぜひ。6月6日まで青山円形劇場。

母親が家をでたきり戻ってこない、父親と娘の二人で暮らす家。父親は母が出ていったのはその娘が生まれてしまったからだといい、あらゆることの原因が娘にあるとあたるが、娘はひたすらそれに耐え、いい歳になっても家から出ることもなく、様々な本を読みふける。男からのセックスを拒むことが出来ない幼なじみに本で読んだ「夜這いは日本の伝統文化なのだ」といってなぐさめたりする。娘の横で寝る父親はその寂しさゆえに毎夜すすり泣くが、好意を持つ女が現れ、家に出入りするようになる。ある日、ある日自分を輪姦した男を幼なじみ自身が連れてくるが、勘違いした男は、その夜娘と父親が寝ているところに夜這いに現れる。

たった5人の濃密な物語。今の不幸はすべて娘のせいだと言うのに見捨てて出ていくことを許さない父親と逃げ出すこともせずに恨みをため込んでいる娘。本を読んでばかりで「頭のいい」娘は自分を責めるばかりの長い時間をすごしてきている。父親に対するねじれた愛情の現れなのだけど、理不尽な暴力を受けてもなぜかそこから去れないというDVの温床のような関係というのがそれほど突飛なモノではない、という説得力をもって迫ってくる感じがするのです。

あるいは硬派な男に惚れがちな面倒な女、サセ子な女、鬼畜な男など、それぞれはあまりに不器用。 全体にどうしようもない閉塞した感じなのに、それぞれはじつに一生懸命に生きている人々に注ぐ作家の視線は決して優しいという感じではないけれど、切り捨てるではなく、きちんと向き合い、人物を描き出しているのです。

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速報→「革命日記」青年団

2010.5.15 15:00

若手公演として二年前に上演されたものを本公演として再演。90分。16日までアゴラ劇場。

活動家たちのアジト。夫婦として日常生活を送る一軒家の居間。それまでの活動方針が突然変わり、計画されていた空港襲撃に加えて大使館襲撃を同時決行ということになり資金も人材も不十分の中の変更に戸惑う声もあるが、表だって批判したりするものはいない。間近に迫った空港襲撃の段取りを打ち合わせるために集まった人々だが、表向きふつうの生活をしている夫婦の家には、隣近所やら、非合法活動を知らない支援家などが不意に訪れる。

いわゆる既存の左翼の非合法活動の枠組みで考えると空港だの大使館だのの襲撃というのは今時の日本で考えたら明らかに実現性が薄い感じでリアルさのかけらもないとは思います。これはアタシ以上の世代では顕著にに感じることだろうと思うのだけど、大学からしてそういうことのかけらもない中だったあたしには、あのころの他の大学にも残渣はあっただろうあれがリアルだったかというと、それもアタシのは遠い世界の話。作家はそのリアルさのかけらもないことを承知でこの虚構に満ちた物語を描こうとしたのだと思うのです。

当日パンフにあるとおり「個と集団」のありかた、それをオウムの問題に照らして描き出した今作は、「革命」を「宗教」や「芸術」と置き換えても、世界を変えることが本当にできるかどうか、びっくりするぐらい内部の人々と部外者の間の認識の差の激しさという意味ではたやすく置き変わる感じであたしの中には腑に落ちる感じがするのです。

若手公演を見たときにリーダの演説の空虚さに感じた怖さよりも判断を誤ったのではないかということを指摘した女性(鄭亜美)に対して、男女の問題に貶めて正しく議論できないリーダと、その女性を孤立させてしまうこの集団の姿の絶望。もう一人の女性(中村真生)は活動にすべてを捧げている、女性同士の対立軸になってしまう、というのも、どこか今時の会社の何かをみてしまうよう。

この会社のような関係に加えて、一方で町内会のような緩くて、しかし抜けられないコミュニティや、親子や親戚、夫婦という単位というイキモノとしてのコミュニティをこれだけ詰め込んで90分。コミカルさなど織り交ぜて飽きずに、しかし詰め込んだ感じもなくて濃密な物語が楽しいのです。

当時の若手を中心に据えてもしっかりと本公演として成立させられる確かな二年間の成長。鄭亜美、中村真生、梅津忠など中心の人物もそうだし、福士史麻、木引優子、能島瑞穂なども、若手だとおもっていたら、それなりの年齢になっている感じにもなって確かな力で頼もしい。畑中友仁演じる、善意のシンパの悪意のない、しかし自分にすべてをひっぱってくるある種のうざったさ加減は、なんかものすごい造型で、「あるある」という感じ。実は一番イヤな感じの爪痕をアタシの気持ちに残したりも。

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速報→『ロイヤルミルクティー」ユニットニット

2010.5.14 20:00

アタシが松本で観る初めての芝居です。女性三人の笑わせてほろりとさせる旗揚げ公演。当日パンフには60分とありますが、実際には100分。16日までピカデリーホール。

学生の若い女と同居している26歳最後の日の女。そろそろ若くもないし、夢も破れてもういっぽ踏み出せずにいる。その女の母親は遠く離れ一人でスナックを切り盛りしている。二人はもう長いこと会っていない。ある日、店じまいした母親の家に、小さな缶に入った「ロイヤルミルクティー」が届く。

古い劇場を改装した劇場。席を外してパイプ椅子席、天井は高くてキャパは結構あるようです。若い女の子の部屋を模したぬいぐるみたくさんの部屋。

夢やぶれてフリーター生活に甘んじる女。彼氏が居るでもなく、誕生日が近づいてため息をつくばかりのような日々。母親と喧嘩別れのようにして何年も会っていないのだけれど、あるきっかけで再会を果たすのには、少々無茶なファンタジーというかSFの仕掛けを用意して。SFにはもう一つの効果もあって若い役者に無理なく母親の役をあてます。互いの中にある想いと踏み出せない葛藤する気持ち。踏み出せない気持ちを、そうと知らない母娘が吐露するあたりまでの盛り上げが物語の骨格。

物語の骨格じたいは、悪く云えばよくある感じではあります。ファンタジーをまぶしているけれど、母と娘の再会と葛藤の物語。それは安心な物語ということでもあって、想像した着地点にゆっくりゆっくりと進んでいるのです。

物語の骨格の外側に存在しているけれど物語をかき回し、推進する力は駒澤春香が演じる学生の女。アイドルになりたいと屈託なく思っている、というテンションの高い役は最初こそその無茶さ加減を感じるものの、物語をきちんと押し進める要となる果たすべき役割がしっかりとしていてやがて安心できるのです。

母親を演じた青柳孝子は無茶な年齢の落差をきちんと。時にコントのようですらあるけれど。娘を演じた青木千夏は鬱屈する気持ちを秘め続けるポジションをしっかり。

物語がゆっくり進むところと、早回しにするところのバランスなどアタシが見慣れた芝居の感覚とは少し違和感を感じるところもあります。それがこの土地のものなのか、彼女たち特有のものなのかはまだわかりません。

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2010.05.11

土地で暮らす。

なんておおげさなことじゃありませんが。初めて東京に行かない週末でした。自転車を買って喜んで走り回ったり、食べログ駆使してお店探ししてみたり。このコンパクトな街できちんと暮らしていくというのはアリな選択肢だよなぁと思ったりもするのです。でも、それでも芝居は今のところ諦めきれない。また通うのです。

今週末は初めてこちらの芝居も観ます。すごくたのしみ。

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2010.05.04

速報→「パラデソ」タカハ劇団

2010.5.3 15:00

タカハ劇団としては二年ぶりの新作だといいます。気持ちを細やかに描き出す力の冴える80分。11日まで「楽園」。当日パンフにあるとおり、居酒屋という設定もあり容赦なくたばこの煙が上がりますので気にされる方は早めにスタッフへ(指定席だけど振り替えてくれるようです)。

静岡の個人経営の居酒屋、雨も降り夜遅くなってきてそろそろ店じまいしようかとおもった矢先、喪服姿の男女6人が訪れる。古い友人の通夜帰りらしい。11年前、子供の頃近くの施設で親たちと共同生活をしていたらしいが、その後あるきっかけで散り散りになって、ほぼ10年ぶりぐらいに再会する人々。

居なくなった人のことをさまざま語る友人たち、小劇場ではわりと王道のフォーマット。そこに「教団」という少々のスパイスを強めに効かせて。教団とコミュニティの対立のようなことをことさらに描くというよりは、むしろ、そこにいる、かつての友人たちを絶対的に隔ててしまった何か、ということとしての装置として働かせている感じがします。

ねたばれ

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2010.05.03

速報→「ヤナギダアキラ最期の日」渡辺源四郎商店

2010.5.2 19:00

ナベゲンの新作。青森で一週間を越える公演を経ての東京公演。95分、5日までスズナリ。思わず支援会員に(実はお得)。

ホスピスに暮らす老人、彼の最後の望みは果たして叶い、フィリピンから、あのころのことを知る知人が訪ねてくる。

実際のところ、芝居や映画の題材としてはわりと使われている感のあるファンタジー。かなり無茶な設定のワンアイディアだけれども役者の年齢や役者の力のバランスもフルに使っての説得力を持たせるというのは、役者を抱える劇団というシステムの強みを感じさせます。

当日パンフで作家は四十代後半を迎えて向き合う死について、という言葉。アタシはまだ四十代前半だけれど、そういう感覚は日に日に強くなります。この芝居のようなファンタジーではあり得ないけれど、例えば芝居をしている、たとえば仕事をしている若い人々を時折眩しく感じるような、そんな感覚が、この芝居の中では散りばめられています。そのコントラストは残酷だし、現実なのです。

ねたばれ

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速報→「アンポテンツ」チャリT企画

2010.5.2 14:00

チャリT企画の新作。アタシは未見ですが、2月に初稿でリーディング公演したものを改訂した90分。2日まで王子小劇場。

大きくそびえる門と壁。その手前のところで待つ人々。あるもの門の向こうに肉親が居てたまに訪れる。あるものは職にあぶれ、希望を求めてここで誰かを待っている。門はいつ開くかわからない。一日に一回開くこともあるし、一週間も開かないこともある。門を開けとデモの学生が通り、門の向こうの親友のためだったり、何かの為に門を越えようと人々が後をたたない。

小劇場の持つちからの一つに、今世間で起きていることを鋭く切り取って見せるという力は確かにあると思うのです。その最有力を一貫して占めている彼らの新作。安保そのものというよりは、日本の安全保障がまたひと揺れしている今だからこそ、この芝居はかっつりとはまるのです。

いわゆる安保を門にたとえ、深く考えずにその中でぬくぬくくらす世間。門の向こう側ではどうも戦闘が起きているのは知っているけれど、大多数には関係のない遠い世界の話、ここの暮らしを平穏にしていくためには深入りしない、守ってくれている「門番」に感謝こそすれ、疑うということはしない、という枠組み。それは、今のアタシたちが囲まれてきたこの国のこの時代のありさま。

向こう側のマスコミの報道はこちら側のそれとは違うようだということは知っていても、チャリTはさらに一歩踏み込んで、僕らが危険で脅威だと思っている向こう側はほんとうにそうなのか、というところに踏み込んでいくのです。中立で僕らのことを守ってくれる「門番」を導入することで、今時の日本が置かれている状況をシンプルに、少々戯画的に描き出す確かなちから。この門番の台詞、「門を守ることがミッション(どちらかの国を守ることではなく)」という台詞が秀逸。 ラストシーン、門を踏み越えてこちら側に来ようとする人は、こちら側から踏み越えていった人の鏡写し。そら恐ろしい気持ちを残すのです。

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速報→「15 Minutes Made Volume8」Mrs.fictions

2010.5.1 19:00

ショーケース企画として安定した15分芝居の8回目。実力派そろいですべてが水準以上に感じられて嬉しい120分ほど(休憩10分)。2日までシアターグリーンBox in Box。Baseシアターの場所にカフェが出来ていてびっくり。

ネタバレかも。

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速報→「In The PLAYROOM(再演)」DART's

2010.5.1 14:00

12月の人気公演をキャストも同一に完全再演。彼ら自身は「追加公演」と銘打つ110分。2日までルデコ4。

自分が忘れていただけなのだけど、初演のときと同じほぼ同じ場所に座った印象はびっくりするぐらいに同じ感じ。もちろんホンがある中でより深化させてはいるのだろうけれど、初演の強烈な印象を(良くも悪くも)そのまま、そのときのアタシの感情すら再現されそうに「同じもの」がみられるのは、それはそれで幸せ。一種のクオリティの担保ができることは、リスクのありがちな小劇場の芝居においては裾野を広げる意味でも大きなメリットがあります。

手に汗を握るようなボードゲームを模したチラシはとてもいいグラフィックで、これは再演ゆえに作れたものかとも思います。実はもの凄く凝っているという噂も。

劇場のある渋谷区・ルデコを中心とした「リアル鬼ごっこ」をこの小さな「廃墟のような」ビルの一室の劇場で構築することのエンゲキの強み。キャッチーなミステリー仕立てだけれど、よく考えたら作家が物語をコントロールしているわけで、本当の意味でのミステリーとは違っています。でも、それはデメリットではなくてこの緊迫感のある空間を再現できたこと、という芝居のもつ強度のようなものをしっかりと感じ取れるのです。

物語がわかったうえでみていると、中盤以降にキーとなる女の表情が見えづらい窓側の座席は少々もったいない感じも。しばらく経ってから観客全員の見える方向に向き直るのは正しい選択です。初演でみてるんだから、その反対側で楽しむべきだったよな、と自省しつつ。

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