速報→「春の海」世田谷シルク
2010.4.11 17:00
世田谷シルク初めての完全オリジナルな物語。ダムに沈む村の学習塾を巡る100分。11日までシアター711。
実験を通して子供に考えさせることを主眼とした村の学習塾。騒がしい子供たちの風景。その風景を撮影したフィルムが見つかって。
古来の物語と現代の会話の重ね合わせが持ち味のシルクなのだけれど、ある村の物語のいくつかの時代のシーンを切りとって、細かなカットバックが冴えます。時にアタシの視点は混乱するけれど、やがてその速いテンポが実に気持ちよくなってくる不思議。
やがて、そこには山田くんという少々手に負えない子供が描かれます。彼だけは役者ではなく周りの人々の会話と、スライドによる山田くんの言葉という形で描かれます。それは先生たち同級生たちの見つめる視線は観客の視線と重なり、まるで自分が山田くんになったようないくつかのシーンに。
教師の注意も聞かずに自分のしゃべりたいことに夢中になってしまうこと(音楽に乗せるのが秀逸)、勘違いで引っ込みがつかなくなって喧嘩になること。さまざまな子供の頃の風景、涙がでるほどにノスタルジーに浸ります。
ラジオの向こうに聞こえる切れ切れな言葉、役者が一音ずつ発音して台詞を綴るというごくシンプルなシーンなのだけど、これをきちんと成立させるのは実はかなり作り込まないといけないんじゃないかと思います。シンプルだけど美しいのです。
三年生はぎりぎりの子供の境界線、何かが芽吹くうらあたたかな季節の春の海の中のよう、ということを作家が感じてのタイトルかどうかはわからないけれど、ダムに沈んだ村という水中に眠る過去の賑やかな感じはよく出ていていいタイトルなのです。
いくつかの実験のシーン。いわゆるゲルマラジオ、謎の気体の実験、ペットボトルの浄水器など、わりと小学生のものとしてリアルな感じが楽しい。ラジオはわざわざコイルを巻いた小道具だったり、ダイオードなんて言葉が出てきたりとわりと作家の理系性(かどうか知らないけれど)が見え隠れ。学研のカガクで育ったオヤジとしては実に楽しい。 ペットボトルの浄水器の実験は、リズムに乗せるのはたとえば維新派、たとえば柴幸夫がみせたような感じでやっぱり気持が踊ります。それを机の上というごく小さい世界で成立させてしまって、必ずしも身体表現に乗せずにやってしまうというのが、身体表現にもこだわりのある彼らがやる意味を感じるのです。子供の喧嘩、帯金ゆかり、堀越涼、松下幸史のあれこれが楽しい。大人のシーンとの二つ持ちの落差も彼らの力をしっかりと感じます。特に松下幸史はいままで見せたことのない陰のある感じが新鮮。
失うものに対する想い、それはダムの村、痴呆の進む父、行方の知れない山田君。何かの解決ではなく、ノスタルジーをあるままに提示して観客の気持ちの何かを揺らす感じがします。反面いままでは強力な古来の物語に重ねることであった軸が、ふわっとした「想い」を頼るざるをえないところが、力強さの点では物足りない感じも。でも、このふわっとした感じは何かの鉱脈がありそうな感じ。もうちょっと見てみてたいのです。
ポリシーとして折り込みを受けず、自身の劇団もほとんど折り込みをしていないのは一つの見識。かわりに googleの広告ででてきたりと度肝を抜かれます。開場時間中にスライドで折り込み代わりに映写するのはいいアイディアだけれど、壁の模様が邪魔になって見えないのはちょっと残念。手元に残らないのは集客の手段としてはいたしかゆし。まあ、劇団名ぐらいみておけばいくらでもググればいいわけですが。
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