【稽古場】「おるがん選集〜春」風琴工房
2010.4.25
29日が出勤日になってしまって、どうにも見られないとぼやいていたら稽古場の見学に誘っていただきました。感謝25日夕方時点で「桜」「藤」どちらも休憩無しで80分ほど。26日から29日までルーサイトギャラリー。アタシはやや上手寄りから、表情がたくさんみえて楽しい。
■「桜」
座る女。あの家の男たちのことを聞きたがる人々に葡萄酒を頼み静かに語り始めるあの家の最後の三人の男の話「寡婦」(青空文庫)
玉ノ井。傘に入れてもらったお礼に女の部屋に呼び込まれた男は小説家で、通うことになる「濹東綺譚(ぼく東綺譚)」(wikipedia)
■「藤」
津島の部屋に勝手に入ってきた男、幼なじみで今はこの津軽で百姓だという。酒を呑もうといいだして。「親友交歓」(青空文庫)
お忍びで訪れた皇太子にこの施設の将校が死刑の装置について語り出す。この装置を作ったのは前の指令官だが、国が外国に統治され「流刑地にて」
作家が好きな短編を選び、大切な本のページをめくるように語るシリーズの春編(チケット代には上演台本が「おみやげ」として込み)。場所は見られなかったけれど、たぶん隅田川沿いの一軒家、場所を探すことでは比類ない力の持ち主が主宰ですから、そこにいけないアタシは本当に残念(GWにでも散歩に行きますか)
ネタバレかも
「寡婦」は動きのあまりない序盤、女の一人の語り。なぜ彼女が寡婦になってしまったかについての長い物語。その家の最後の三人の男についての物語。無自覚に幼い男の恋心に火をつけてしまった女は物腰静かだけれど、男にそうさせてしまう、という魅力。ほぼ一人語りで、物語を読んでいる、そんな雰囲気が十分に。まっすぐ動じず語る、若いだろうに「老嬢」を演じきる松木美路子。なるほど幼いように見える五十嵐勇。実はラストシーン、上野理子のせりふも所作も大好き。かっこいい。
「〜綺譚」はもっと色っぽさのある芝居。水はけの悪い玉ノ井という場所でくらす人々と、それを覗きに来た男。この部屋の主も、持ち主たるマダムも、行商の少年も、この土地で生きている人々の詳細な描き方、そこにひととき通い詰める、というのはある種の男の性。それもないまぜにきちんとパッケージする物語のすごみ。男の美学を貫く篠塚祥司が実にカッコイイよくて妬ましい。津田湘子のおもねる感じ、声のすべてが本当にいとおしい。上野理子のおばちゃん口調のコミカルも好きだし、五十嵐勇はこの町で育った男をきちんと体現。
「親友交歓」は都会人たる津島と、自ら津軽の百姓と名乗る男の落差。出生地とはいえ、都会の暮らしから一時的に避難している夫婦。無遠慮に踏み込んでくる幼なじみに少し気圧されて酒を呑ませてしまうと、どんどん気圧されて。田舎だと思っている場所の無遠慮さに困る感じ、大風呂敷なのに実像はそうでもないなんてさまざまな雰囲気が楽しい。都会での悪行が知れ渡ってしまっているというのも、作家らしい。その大声で呑みたい男を好宮温太郎の爆発力できっちり。夫婦を演じた浅倉洋介、松木美路子の困り怒る感じがおもしろい。
「流刑地〜」は今となっては悪趣味とされた刑罰守る男の最後の切り札としての皇太子。 価値観の転換点の去りゆく人々、狂信的とも云う悪趣味、人権というものの視点がまったく違う、いわば文化の違いを切り取る、なるほどカフカ。決して愉快な物語ではないけれど、そんな作家の俯瞰する力を存分に感じるのです。浅倉洋介の語りが大部分、その狂ったように見える視線の凄み。看板俳優というものの確かな力。好宮温太郎の表情が座った場所から見えなかったのは残念。皇太子と従者を演じた 五十嵐勇、松木美路子の困惑はアタシたちの視点をしっかり。
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