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2009.05.31

速報→「一月三日、木村家の人々」二騎の会

2009.5.30 15:00

宮森さつきと多田淳之介の二人ユニット。直球勝負で私たちに問題を突きつける100分。2日までアゴラ劇場。

1月3日らしい家の中。女が窓を目張りし七輪で自殺を企てる。そこにチャイムが鳴り、近所に住む従兄弟がお節を持って現れる。適当にあしらって帰らせようとするがなかなか帰らない。そのうち妹や兄夫婦まで現れて。

劇場入り口に「木村」の表札、げた箱で靴を脱いで客席に行くと、絨毯敷きの居間らしいところを囲むように客席。観客は木村家に「お邪魔して見ている」雰囲気で芝居を進めます。前説では演出家が舞台が正月だということを少々強引にしかしコミカルに説明します。

追いつめられる在宅介護者の問題を物語の根幹に。そのもととなった今の社会のシステムに対して怒りをぶつけると言うよりは諦めに近い無力感で作家の目線は介護の当事者と、家族であるはずなのにどこか他人事になっている兄弟たちとの溝に向けられます。

あたしにとっても、恐らくは大多数の観客にとっても、介護の問題はまだ実感をもって感じられない問題ですが、演出は、居間の延長線上に客席を作り、人物が時折客席に語りかけることで、「私たちの問題」であることを強く印象づけます。この部分に多少のギミックはあれど、全体としては直球勝負のまっすぐすぎる語り口は、あたしの気持ちを強く揺らすのです。

「大晦日正月にも来ないで3日になって家にくる人間の言う家族愛だの介護に協力するだのという言葉は信じられない」という長女と、「家族なんだから助け合うのを相談するために正月3日に来ているじゃないか」という終盤近くの諍いの溝の深さは、この国のあちこちで起きているリアルな問題をシンプルにしかし強く感じさせる圧倒的な力のあるシーンです。結論の出ない問題ゆえに絶望的な気持ちにすらなるのです。

正直に言えば、誰も否定できないネタを、しかも演出が自分たちも経験者なのだ、と当日パンフで前口上されてしまうとその事実の前にひれ伏するところから観客はスタートする感じがあって、個人的には少々違和感があります。よくない芝居ならなおさら。もっとも、本作は芝居に圧倒的な力がありますから、大きな問題ではないのだけど、開演前に少々警戒してしまったのは、まあアタシの問題ですが。

島田曜蔵演じる良心的なホスト、やけに知識があったりとやけに都合のいい役ではありますが、元妻はこの介護の当事者になりうるのか、という問題を持ち込みつつも、諍いのポイントをいくつにも分散させないのは巧いなと想わせます。

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