速報→「眠れない夜なんてない」青年団
2008.6.28 18:00
青年団の新たなスタンダードの予感。115分、7/6まで吉祥寺シアター。
マレーシアのリゾート。セミリタイア世代にコテージと日常のケアを用意する永住型の施設。退職や仕事での移住で静かで穏やかに日々を過ごす人々。数日のショートステイや、見学のために訪れたりもする。ある日、ここに住んでいる夫婦のところに、娘ふたりが訪ねてくる。久し振りに家族全員を揃える意図は..
昨今ではさまざまなスタイルの芝居も行いますが、青年団のスタイルというのはこういう感じだよなぁという芝居。新作としてはかなり久々ではないかと思うのです。年齢があがった役者たちにもぴったりな感じなのもスタンダードの予感を裏打ちするのです。
そのスタンダードを支えるのが、コアの役者たち。若い役者も増えている青年団ですが、志賀・山村・山内・松田・ひらた、などの面々が顔を揃える新作というのは、ことさらに派手なシーンなんかなくても、何というか迫力というか、舞台にチカラが溢れているという感じがします。
タッパの高い吉祥寺シアターを使いこなすのは難しさもあるのですが、そこもさすがで、広々としたリゾートホテル風の空間をきちんと作り出しています。広々とした余裕はあるのに、スカスカではない空間を、美術だけできっちり出来るというのは、たとえば湘南台での「南へ」の例を引くまでもなく、彼らなら当然できちゃうわけですが、この美しい舞台にほれぼれします。
ねたばれかも
当日パンフにも書かれているように、新しい世代の「S高原から」といった仕上がり。加えて「冒険王」という日本に戻りたくない人々の姿。静かに「衰えて」いく姿なのだけど、若者たちの物語である「S高原」とは明確に違うのは、人物達の年齢が高かったり、あるいは夫婦という単位ゆえの意見の微妙な差なども楽しめるのです。
S高原と同様、暮らしは困らないし、ゆったりとした人々。考えていることがあって、そこには強い意志もあって。ひきこもりだった青年、というところを起点にした後半が圧巻。思いだしたくない過去、住んでいるのが嫌だった実家などさまざまな補助線を引きながら、日本という生まれた国に見切りを付けてしまうことと、その哀しさが語られるのです。その見方の面白さ。
リゾートには慣れないし、この場所に居たいというよりは日本に居たくない、という消極的な選択だということは、積極的な希望ではないだけに、ずっと根深い問題だと思うのです。日本の成長を支えてきたであろう彼らからそんな言葉が出てくることの絶望。
かなりエキセントリックな造形の役があったりはしますが、広々とした空間のぼそぼそとしたしゃべり方など、少し前の青年団のフォーマットの感じ。スタンダードなスタイルで、しかし年長の役者たちの今の年齢に合わせた感じで、次の世代の新作らしいしあがりなのです。
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コメント
こんばんは。昨日観てきまして、他の方がどんな感想かなと思いネットを回っていて辿り着きました。
今回は随分趣を変えてきたなぁ、って私も思いました。
前田司郎や岡田利規など自らの系譜から次世代が続々出てくる中、平田オリザは戦う相手を旧来の演劇(野田や鴻上ら80年代演劇)から現代口語演劇(自分を含む)に移したんじゃないでしょうか。
いわゆる「静かな演劇」をリアリティーとのバランスを保ちつつ、賑やかに或いはバラエティーに富んだ物にしていくことを志向しているように、私には思えました。
投稿: 誠 | 2008.07.04 00:34
誠さん、コメントありがとございます。
賑やかに、というのはここ数作で見えてきていたのですが、アタシがみた印象は、最初に観た青年団(んん、なんだっけ)に戻った感じがしました。きちんとした会話劇の醍醐味だったのです。
投稿: かわひ_ | 2008.07.12 01:31