速報→「小部屋の中のマリー」DULL-COLORED POP
2008.6.7 1500
ダルカラの新作。脳がかき回されるような面白さと役者の魅力。110分。9日までタイニイアリス。
本が好きで利発に育ったマリーは、父親が地下室に閉じ込めたまま一歩も外に出さず、色のついたものを一切見せずに16歳まで育ててきた。発見され、病院に移されたマリーは、医者や福祉関係者のもと、治療に入る。父親と隔離されてしまったマリーは医者たちと口をきかなかったため、経過観察という状態のまま日々が過ぎていった。医者の一人はその臆病風に吹かれた措置を苦々しくおもっていたが、ある日ふとしたきっかけでマリーの興味を引き、話をすることができるようになった。
劇中でも語られる思考実験「マリーの部屋」を核に、マリーなる少女と彼女が出てきたあとの出来事を描く構成。クオリアなんて言葉は茂木健一郎か某家電メーカの製品ブランド名だと思ってたアタシにはぼんやりとしかわかってなかった言葉が、形をもって目の前に提示されていくような面白さがあります。たしかに言葉もところどころ難しいし、ホントのところは理解してないという気もするのですが、なんていうんだろう、好奇心が満たされていく面白さのようなものがあります。
白黒以外の色を目にしないまま、他人とも接触しないまま育ってしまったが、本だけは読んでいて莫大な知識をもち、感情というものを字面では理解しているマリー。物語が色覚を獲得していく過程かと思うとさにあらず。文字ではあらわせない、むきだしの感情というか人間の心の中にある何か、を発見するたびに「わぁ」と声をあげ、時にはいたずらっぽく、時にはきらきらと笑いながら、感情を理解していくことの過程を、一緒になって追体験しているような面白さがあります。
俗世間で生きていることで、功名心やあるいは欲といったものでがんじがらめになった人々の言葉はまったく彼女にひびかない、ナマの感情を見せることに興味が惹かれるという設定が巧いのです。父親はなぜ彼女を隔離するに至ったか、許された行動じゃありませんが、そのモチベーションがアタシにも腑に落ちる感じがするのは説得力を持ちます。
終盤に仕掛けられるマリーのいたずらも、実は早々に読めてしまったりするのだけど、まわりがバタバタする感じが実におもしろいのです。
正直な話、まったく色をみないまま育つとは云っても、じゃあ部屋に入ってくる父親の顔や唇はどうなんだ、という疑問がなくはないのだけど、まあ、それはささいな問題で、物語に大きな影響を与えるほどではありません。
ダルカラの看板女優、清水那保を大きくフィーチャー。ほとんど舞台の中心で出突っ張り。不機嫌だったり笑顔だったり、彼女のくるくると変わる表情は美しく、女優で見せる芝居という側面は確実にあるのです。看板女優のこの表情を漏らさず観るのなら、やや上手、迷わず最前列を。
もちろん、女優一人のちからだけではありません。他の役者はどうしても背景を描くことになってしまうのだけど、それぞれの役者はそれぞれの背負ってるものが見えて、世界をきちんとつくりあげています。全体として似た感じの役者が多い中、小林タクシー演ずる弁護士は癖もコミカルさも持ち合わせていて少し異質で、しかしそれゆえに目を引きます。ものわかりのいい女を演じた堀奈津美の「面倒くささ加減」も絶妙のバランスで、その部屋に来る男のある種の絶望もちょっと面白い。
ネタバレかと思うと、CoRichにかいてあるのだけど、ペインティングの美術が、ライブ感をより強調します。終幕のマリーの表情の良さと、それにかぶせる形で語られる言葉の「引き替えに失ってしまったもの」の言葉のコントラストも美しいのです。
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