速報→「翼をくださいっ!さらばYS-11」ギンギラ太陽's
2008.1.11 19:00
福岡を拠点にする「かぶりもの劇団」二回目の東京公演。あたしの涙腺は緩みっぱなしの130分ほど。14日まで天王洲銀河劇場。
新規参入組で初の黒字化を達成したスカイマークエアラインズ、その一号機が語る、参入当初の苦労話。98年に半額運賃で参入したものの大手や海外航空会社との熾烈な争いは、やがて九州各地の空港を巻き込んでいく。福岡空港で邪険に扱われたスカイマークの一号機はかつては飛行場だった雁ノ巣の格納庫跡に追いやられる。そこで偶然であったのは、日本の民間路線からは消えて久しいYS-11だった。
「人間が一人も登場しない人間ドラマ」のキャッチコピーどおり。人間どころか生き物でもなく、かぶり物の役者たちは時に飛行機、時に車両、時に建物になります。新規参入のスカイマークや最後の国産旅客機YS-11、あるいは戦中戦後の飛行機の物語を織り交ぜながら、「やっとの想いで手に入れた自分たちの翼」の物語を時にコミカルに、時に濃密に描いていきます。 チラシやwebなどでの見た目には相当コミカルですが、どうしてどうして、アタシはかなり早い段階からダダ泣きの状態になるのです。
乗り物というよりは、このてのインフラの物語、プロジェクトXっぽいことも含めて大好きなアタシです。終演後のトークショー(10日11日に設定-TEAM NACS・森崎博之)によれば、建物や飛行機・航空会社という無機的なものでも、「それを支える何百人、何千人という人々の想いの結晶」をシンボリックに表して芝居にしているという描き方が、アタシの涙腺を更に絶妙に刺激します。
銀河劇場という規模の劇場をほぼ素舞台で使っているのですが、かなり健闘しているし、思ったよりもちゃんと空間を埋めきっていると思います。二階席正面から観ても、いくつかのシーンは実に美しくきちんと作られています。
しかし、なのです。TEAM NACSで味をしめたかどうか、地方の劇団を一本釣りしてテレビの情報番組でちょこちょこプロモーションし、大きな劇場で芝居を打つというやりかたをしています。客席にも明らかに芝居を観る層とは違う、スーツ姿のオジサン二人組、のような人も目立ちます。 アタシはこの規模の芝居は、アプル・本多劇場クラスで見たい。週末も毎日一回しか公演しないで大きい箱を使うぐらいなら適正規模で二回まわしてほしいと思うのです。さらに望むことは継続していかなければ、と思うのです。一気に呼んで規模を、なんてことで飽きられてしまうなんてことが万が一にもあってはならないと思うのです。
前説代わりには、西鉄バスのかぶり物をした役者たちが客席をまわり、写真撮影タイム(たとえば)を作っているのは盛り上がりにも適切だし、「今は撮ってもいいけど、芝居始まったら電源を切れ、他の芝居でも写真なんかとっちゃダメだぞ」ということを実に自然に納得させる流れで巧いなと思うのです。
(2008.1.21追記) どこかでかぶり物芝居見たな、と思っていたら、遊気舎系のイベントでした。わはは。
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コメント
リンクありがとうございまーす。
西鉄“ヤクザ”バス軍団(笑)、楽しいですよね。開演前になごませてくださいました。
確かに新宿とか下北沢で観たい気がしますね、こういう作風は。
投稿: しのぶ | 2008.01.12 23:35
私は、普段は演劇を見る趣味はないけれど、ギンギラだけは大好きなファンです。ここ7年間、公演は皆勤賞です。そんな我らのギンギラが東京でどんな風に受け止められたか知りたくて、このページにたどり着きました。
ギンギラは、地元では唯一の成功した劇団だと言われています。何故かというと、演劇ファンではない人たちが、ギンギラの固定ファンになっているからです。演劇とは縁遠い普通の人が、毎回ギンギラの客席を埋めているのです。「明らかに芝居を見る層とは違う、スーツ姿のオジサン二人組」という客なんて、実は平日夜のギンギラ公演では当たり前なんです。
どうしてギンギラに背広系の固定ファンが多いかというと、ギンギラが描いているのは九州の経済界だからです。ギンギラに出てくる会社はみな九州の有名企業。背広系の人たちが生きている世界です。そんな会社のいろんな問題について、ギンギラが突っ込んで喜怒哀楽が生まれる。鋭い時事ネタが多いからこそ、演劇とは縁遠いビジネスマンを惹きつけているのです。
だから、ギンギラの東京進出にあたり、「人間が登場しないヒューマンドラマ」と紹介されるのは、一面の真実ではあるけれど、的を射た表現ではないと、私は常々感じていました。ギンギラの最大の魅力は、その時事性、社会風刺性にあるのです。これはまさに「地元の人にしか分からない」部分かもしれません。(大塚ムネトさんは毎回、最後の挨拶の時に「地元の人にしか分からない芝居を続けます」と言いますが、東京公演でも言いましたか?)
天神を横行する無数の西鉄バスに迷惑したことのあるドライバーじゃないと、冒頭恒例の「西鉄バス軍団」のネタは分からないかも知れないし、佐賀空港や北九州空港の開港に当たって地元政界や経済界がどんな綱引きをしたか予備知識がないと、空港ネタのツボが分からないかも知れない。地元の生活感覚を身につけた上で、さらに地元の社会経済問題に詳しくないと、ギンギラを隅から隅まで堪能するのは、難しいのではないかと思っています。
だからこそ福岡において、ギンギラは普通の劇団とはっきり一線を画しているのであり、演劇には関心のない固定ファンの獲得に成功しているのだといえるでしょう。
東京公演に来られていた「明らかに演劇を見る層とは違う、スーツ姿のオジサン二人組」とは、おそらくギンギラのネタのツボが分かる、福岡出身者、九州出身者ではないでしょうか。
何はともあれ、東京公演で、ギンギラの地元時事ネタや地元社会風刺ネタが分からなくてもヒューマンドラマとして評価されてしまうというのは、私にとってはとっても不思議な反応でした。東京まで行って、観客の反応の違いを見てみたかったなあ。
投稿: あい | 2008.01.15 01:44
あいさん、コメントありがとうございます。
「九州の経済界を描いている」というのは、一本見ただけではわかりませんが、確かにそのとおりかもしれませんね。東京進出にあたって「人間が出てこないヒューマンドラマ」として紹介されているということは、実は終演後のトークショーで知りました。
同じトークショーでムネトさん自身の仰った「人間じゃないけど、働いている多くの人々の想い」の結晶したものとしてのヒューマンドラマ、というとらえ方をアタシ自身はしています。
時事ネタをきちんと取り込んでいるというのは、たとえば(未見ですが)前回の東京公演から今回の東京公演に雁ノ巣の変化を取り込んでいる、ということを聞くと、仰るとおりなのだと思います。
地元の事がわからないと本当の事はわからない、というのは仰る通りかも知れませんが、すくなくともアタシはその薄い知識でもかなり面白いと感じましたし、また観たいと思わせるのに十分でした。単なる内輪ネタやその地方の人でないと面白くないという偏狭さがなかったのはとてもいいな、と思いました。
投稿: かわひ_ | 2008.01.15 09:17
東京の人と地元の人では、とらえ方が全く違っていて面白いですね。
東京はおそらく、演劇ファンという客層が分厚く存在するので、演劇ファンだけをターゲットにした劇団がいくらでも成立するのですね。それだけマーケットが大きくて豊かだ、ということです。
ところが、福岡ではお金を払って演劇を見に行く習慣のある人は、東京に比べるととても少ないです。3000円お金があれば、福岡ドームのホークス戦のチケットを買った方がマシ、と考える人間が多数派の都市です。そんな街で演劇のチケットを買わせるにはどうしたらいいかと言うと、演劇に興味のない人間を取り込んでいくしかありません。演劇に興味はなくても、福岡人は福岡のことには関心大あり。そんな地元愛に満ち満ちた人々がギンギラを支えているのです。
ギンギラは確かに演劇ではあるけれど、福岡においては演劇の枠を超えた存在です。福岡における存在感、地元密着感としては、ホークスに近いかも知れない(これってすごい褒め言葉です)。だから東京公演に伴い、ギンギラが演劇という枠の中で評価されていることに、私自身がすごく当惑しています。演劇なんだから演劇の枠の中で評価されるのは当たり前なんですけどね。
言ってみれば、記録を伸ばそうと一生懸命努力してきたスポーツ選手が、美人だということで突然注目されたような違和感。この例え、変でしょうか?(笑)
投稿: あい | 2008.01.20 15:33