【芝居】「棄憶」G-up
2007.11.4 13:15
もともと上演予定だった「38℃」(初演)から演目の変更。同じ作家の「731」(未見)を改題・手を加えての上演。4日まで、site。85分。
帝銀事件を契機にして、箝口令のなか戦時中の部隊での出来事をひた隠しにしてきた男たちが再び集まる。あの事件の特殊性から、専門知識と技術がなければとうてい成し得ないと思われる事件で、彼らのなかにこそ犯人がいると思われて...
小学生のころに、怪事件やら大事故をまとめて学研やら小学館やらからでていた少年向けの本(うひゃぁ、古本サイトで無茶な値段がついてる。とっとけばよかった)が好きで、帝銀事件(wikipedia)の下りの当時の怖さは今でも覚えています。731部隊というのを知るのも関連するという噂を聞くのもずいぶんあとのことですが、戦争後期から戦後すぐの混乱期のおどろおどろしさははっきりと。
劇場というよりギャラリーで、しかもほとんど素舞台状態。反響の激しい地下室であえて声を張った芝居をしているようで、むしろその反響がだだっ広く廃墟となったもと陸軍病院の建物という空間を感じさせます。白い壁、明るい照明はみやすいのですが廃墟感は少々薄くも。途中にかかる音楽も選曲が妙にサスペンスドラマ風で緊張感という点では少々薄まってしまう感も否めません。人物のキャラクタがくっきりとしているのは作り物感があるものの、たしかに見やすいのです。
731部隊(wikipedia)、帝銀事件、戸山の人骨の事件(参考)という「点」作家の想像力は、その裏側にあるつながりを発想し、緊張感のある物語として結実します。世間の噂というレベルでは語られていることなのだけど、それぞれの事件に関連性を感じ取るだけではなくて、何がどういう理由で関連しているのかということをフィクションとして描き出すところまでをきちんと形にしているのです。さらにミドリ十字の血液製剤の事件への端緒を感じさせるような端々も。実在するいくつかの点をつなげはしても、そしてある種よく語られる噂に近いモノであっても、フィクションとして書き出すこと、そして観客が限定される小劇場の演劇で、いわゆるイデオロギーの問題から自由になれるというのもこの作家の特質なのです。
優秀な学者を育てるという目的、抑えきれない探求心、実験など大義名分というか使命感にも似た何かは、ある種の選民という自覚とあいまって生み出された暴走、その現場を描いてるわけではないのだけど、この何もない部屋での会話は、その暴走のありさまをまざまざと感じさせる迫力があります。
現代にいきるアタシには彼らの感覚は受け入れられる感じのものではありません。しかし、その時代と役割の中での「正しさ」もしくは「盲信できる正しさ」をもっていて、自分がその場所に立っていたら同じように考えそうだという説得力を感じます。 人物たちが迫力を持っていて、観客であるアタシが物語世界に取り込まれるような、物語の持つ力があるのです。
ネタバレかも、の物語。フィクションです、との断りがあります。
廃墟となった病院に謎の手紙で呼び寄せられる男たち。731部隊の生き残りたちだった。非道な実験を繰り返した彼らは、処罰や非難を恐れ敗戦後の帰国にあたって、部隊でおこなわれていた研究の一切を公言しないことを固く誓っていた。3年後に起きた帝銀事件の犯行手法は高い専門性がなければなしえないものであり、731の生き残りが疑われた。それをきっかけに秘密裏に集まり互いの情報奉還をしていた彼らは、あるものは大学に戻り、ある者は会社をおこし、あるものはGHQのもとで働いていた。 犯人は中に居た。GHQの命令で帝銀事件をおこしていた。彼らが集まった病院の裏に埋められていた人骨は旧日本軍病院で、731部隊に送り込むための若い優秀な医師を育てるための訓練のために軍が用意した死体たちだった。
G-upプロデュース「棄憶」
2007.10.29 - 11.4 ギャラリーSite
作 野木萌葱 演出 板垣恭一
出演 大内厚雄 山本佳希 有川マコト 熊野善啓 有馬自由 工藤潤矢 酒巻誉洋(elePHANTMoon)
| 固定リンク
「演劇・芝居」カテゴリの記事
- 【芝居】「朝日のような夕日をつれて 2024」サードステージ(2024.09.08)
- 【芝居】「雑種 小夜の月」あやめ十八番(2024.09.01)
- 【芝居】「ミセスフィクションズのファッションウイーク」Mrs.fictions(2024.08.30)
- 【芝居】「氷は溶けるのか、解けるのか」螺旋階段(2024.08.27)
- 【芝居】「BIRTHDAY」本多劇場グループ(2024.08.20)
コメント