【芝居】「ワールド・トレード・センター」燐光群
2007.10.28 14:00
911の日、ワールドトレードセンターにほど近い、日本語隔週誌の編集部の一日を追う、しかしフィクション。135分ほど。11月6日までスズナリ、そのあと伊丹、岡山、北九州、名古屋、金沢、川崎を巡演。
9月11日。ニューヨークのオフィス。物流会社の広報誌的や役割をもつ日本語の隔週誌の編集部。事件が起きたほぼ直後、取材に出かけるスタッフだったり、近くに住んでいる日本人コミュニティの人々が集まってきたり。
燐光群が得意とする実在の事件に基づいたフィクション劇。現場よりは少し離れるがビルの倒壊は目の当たりにし、当日に関して云えば続くテロの心配も抜けきらないながら、わりと日常を暮らしている。雑誌編集や会社にかかわるスタッフの他に、なぜかやけに演劇の関係者、ブロードウェイでアンダースタディの為に離れられない役者とか、日本からきて公演を控えているとか。
911、という身構えてしまいそうになる題材のわりには、現状の悲惨さはその場に近づいた何人かの言葉として語られるのみ。むしろ、普段の延長線のすこし上がったところにあるような日常感の残った描かれ方。たしかに芝居で現実を越えるのはいくらなんでも無理ですから、場所を離れたところに設定したのはまあ、現実的なことだと思います。 ほんとうの現場の様子はさまざまなメディアで描かれていますが、そこから少しはなれた地域での真実の町の姿がどうだったかということは、もちろんアタシにはわかりません。だから、こんなにも日常から離れない感じのゆるい日を描くのは、フィクションゆえなのか、現実もそうだったのかはよくわからないのです。が、身構えて観た観客のアタシにすれば少々肩すかしな感じも。
かわりに結構な部分を占めるのが、芝居に関わる部分。段ボールに一人入る、「箱男」のようなワークショップのようなものをやってみたり、直前に迫った公演ができるかどうかが最大の関心だったり。ほんとの姿はわかりませんが、演劇人がさらに呑気に描かれている気すらします。
段ボールに閉じこもり、自分を見直すということや、狭い編集室の中で肩をよせあうという姿は、911以降に顕著になったと思う、閉塞したコミュニティという感じをよく表しているとは思います。が、それが演劇ワークショップの体裁をとることが、現実を借景にしたこの芝居のなかでやるべきことだったのか、という気はするのです。たしかに、何かの代役のような感覚とか、自分と向き合うことという芝居に暗喩を求めることで見えてくる物があるのかもしれませんが、アタシは違和感が拭い切れません。
もうひとつの切り口は、サブタイトルにある「WORLD TRADE CENTER as in Katakana」、つまりカタカナ表記としての英語の切り口。外来語をカタカナで取り込んでしまうことでわかった気になってしまう危うさのようなものを描きたい意志を感じますし、面白い視点だと思うのだけど物語に取り込まれてない感じ。
現実を引き、アメリカという国やブッシュを揶揄してみたりするのは、燐光群らしい語り口ですし、現実の出来事の取材を通してみえたことを列挙することの力というのはたしかにあるのですが、それ全体がうまく物語に取り込まれていない感じ、というのはやはり残るのです。
燐光群「ワールド・トレード・センター〜WORLD TRADE CENTER as in Katakana」(劇場版)
2007.10.20 - 11.6 ザ・スズナリ
2007.11.9 - 11.12 AI HALL
2007.11.15 岡山市民文化ホール
2007.11.17 - 11.18 北九州芸術劇場 小劇場
2007.11.21 - 11.22 名古屋市名東文化小劇場
2007.11.24 - 11.25 金沢市民芸術村 ドラマ工房
2007.11.29 - 12.2 川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
作・演出 坂手洋二
出演 中山マリ 川中健次郎 猪熊恒和 大西孝洋 江口敦子 樋尾麻衣子 向井孝成 久保島隆 杉山英之 小金井篤 秋葉ヨリエ 阿諏訪麻子 安仁屋美峰 高地寛 伊勢谷能宣 嚴樫佑介 西川大輔 吉成淳一 武山尚史 鈴木陽介
小宮孝泰 ED VASSALLO
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