【芝居】「マトリョーシカ地獄」クロムモリブデン
2007.4.22 18:00
溢れる音とイメージ。物語がシンプルな分、強みが引き立つ感じがします。90分、1日までサンモールスタジオ、そのあと大阪@in→dependent theatre 2nd。
万引きで捕まった女と捕まえた店員の男、他に誰も居ない事務所。女は怯え、男は惚れている。重い沈黙の中、それぞれの脳内で..
ネタバレかも。
しでかした殺人に対して「死んでないかも」から始まり「もしかしたら〜かもしれない」というあり得ない可能性ばかりを都合良く選んだものは、ほんとにハチャメチャなのだけど、納得というよりはねじ伏せてしまうパワーがあります。
まあ、ひらたくいうと、登場人物は上記の二人と警官の三人で、二人は人格がいくつにも別れてる、という構成なのです。分裂気味といえばそうなのだけど、誰でも持ってる心の中の多面性というか。いくつかの人格が並んであるのじゃなくて、マトリョーシカのように幾重にも再帰的に包含し重なり合ってる、ということなのだけど、包含してるということ自体はあまり生きていなくて、並列でもあまり変わりはありません。
それでも、マトリョーシカと、「無間地獄」に繋がる地獄というキーワードをタイトルに置くことで、こういう構成なのだよということを早々に見せていることで、クロモリの中では相当に見やすいと思うのです。膨らんだイメージがビデオドラッグのようにあふれ出すテイストのクロモリは、アタシにとっては「物語を見失って」(まあ追いつけないってことなのですが)しまうことがあるのだけど、本作はごくシンプルな構造のおかげで、物語は物語としてちゃんと受け取った上で、役者や音楽、照明といったものが複合的に合わさってあふれ出すイメージを存分に楽しめた気がします。
週刊モーニング誌上の「ムーたち」(ex. えの素)の微妙さが好きなのだけど、あの漫画の感覚や、ビデオドラッグにちょっと似てる感じがします。
役者のテンションが今までになく揃っていて高く、独特のグルーヴ感が加速します。板倉チヒロ演ずる警官は物語の上でも見せ方の上でもクールダウンさせるポジションで異質ですが、このおかげで他のものの疾走感というかキチガイ感を感じさせてるところもあって魅力的です。男たちの幼く馬鹿馬鹿しい変態性も、自首する直前の女たちの豪遊(「水飴」や「プルート」がちょっとおかしい)。の可愛らしさも、前半で見せる暴力性のかっこよさも、男優も含め、役者の魅力が全開で愛おしいのです。
終幕はあっと驚く、しかし微妙にチープな大仕掛け。しかしその仕掛けだけには頼らず、そこに役者達のテンションとスピードをちゃんと再び重ね合わせることで、ものすごいスペクタクルになったり、あるいはパッションのある感じになったりと生で舞台を見せる魅力というのに溢れています。映像じゃこうはいかない、舞台だからこそ出来ることをきちんと徹底しているところが、この舞台が終わった瞬間に「面白かったっ」と言わせる力なのだと思うのです。
クロムモリブデン「マトリョーシカ地獄」
2007.4.19 - 5.1 サンモールスタジオ
2007.5.11 - 5.15 in→dependent theatre 2nd
作・演出 青木秀樹
出演 奥田ワレタ 重実百合 渡邊とかげ 木村美月 金沢涼恵 森下亮 久保貫太郎 板橋薔薇之介
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